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役立つ病害虫の話

  • 役立つ病害虫の話
  • Disease And Insect Damage

ジャパンアグリバイオの研究員が、皆様に役立つ病虫害の情報を連載します。

役立つ病虫害の話

バックナンバーの情報につきましては、発表当時の内容をそのまま掲載しております。文中の農薬に関しましては必ず最新の登録状況をご確認ください。今まで使っていない農薬を使用する場合は、お近くの種苗専門店や農協、公共機関ともご相談ください。

  • キクスイカミキリによる食害について
  • 2013.7.12

 

 もう3年前の事になるのですが、2010年5月下旬、露地に定植されたキクに突然ぽつぽつと茎の途中から萎れる株が発生し、しおれた茎には奇妙な傷が残っているのを発見しました。この写真を見て、すぐ原因がわかる方はキク栽培に精通されている方ですね。

 

図1 キクスイカミキリの食害

図1 キクスイカミキリの食害

 

 

 茎には写真のような食害痕が残っており、しかし私には何の仕業かわかりませんでした。
 周囲の雑草も見回してみたところ、下の写真のように、なんとキク科雑草だけに同じような萎れが見られ、茎には同様な食害痕が残っていました。

 

図2 キク科雑草への食害

図2 キク科雑草への食害

 

 

 この圃場にナメクジがたくさんいましたので、犯人はこいつかぁ?と思いましたが、こんな食害痕は残さないですよね。キクの病害虫について色々調べたところ、犯人はナメクジではなく、1cm程の小さなキクスイカミキリの成虫だったことが分かりました。確かにこの圃場で何匹も目撃されました。

 

図3 キクスイカミキリ

図3 キクスイカミキリ

 

 

キクスイカミキリの生態について

 キクスイカミキリの成虫は4月下旬頃から6月中旬頃まで発生し、この時期が産卵期となります。キクスイカミキリは茎の先端から約10cmのところに1cm間隔で円周状に2段の噛み傷をつけ、その中に1つ卵を産みつけます。噛み傷によって水の通り道である維管束が切られるため、傷の上部が萎れてしまいます。
 孵化した幼虫は茎の中を下方へ徐々に移動し、地際の茎で越冬し、早春に繭となり、翌年4-6月に成虫になるという生活環を持っています。

 被害圃場は初めてキクを定植した圃場との事でしたが、周辺のキク科雑草がキクスイカミキリの棲みかで、そこに我々が侵入してしまったようです。

 

 

対策について

 
1.萎れた茎には幼虫がいるので、傷から下方5cm程も余分に切りとり焼却処分する。
2.活動の鈍る朝夕に成虫を捕殺する。
3.定期的にアブラムシ等の防除をしっかり実行することで、キクスイカミキリの成虫を寄り付きにくくする。
4.晩秋に古株を掘り上げて処分する。
5.周辺雑草の除草、特にキク科雑草を除草する。
6.成虫発生時期に防虫ネットを張る。

 

 

 キクスイカミキリの生態を知った上で、対策を講じると効果的な防除が実現できると思います。

(2013年7月12日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • キクのアザミウマ(スリップス)類による食害について
  • 2013.6.14

 

 左の写真のキクはケロイド症状や新葉の奇形、展開葉では点々と白いかすり模様が見られます。あれ生理障害? と思ってはいけません。これはアザミウマによる食害です。

 

写真 アザミウマ食害

 

 キクの場合はアザミウマが低密度で存在しても、食害が目立ち被害をうけてしまいます。
また、トマト黄化えそウイルス、キク茎えそウイルスを媒介する害虫でもありますので、早期発見とすみやかな防除が重要です。

 

 

 アザミウマ類は成虫でも1-2mmと非常に小さく、注意して観察しないと初期段階で発見しにくい害虫ですが、左の写真のような症状の株を見つけたら、その株とその周辺の株の未展開葉部分や葉の裏もルーペで注意深く観察してみてください。アザミウマによる食害であればかなりの確率でアザミウマの成虫や幼虫を見つけることができます。
 ミカンキイロアザミウマの場合、気温20度で卵から成虫まで19.2日間、また1ヶ月間で300倍にも増殖すると報告されており、その事からもアザミウマの防除は早期発見が重要であることがわかると思います。
アザミウマによる被害を受けやすい時期は、露地でキク科雑草が多く開花している時期を中心とした4-6月と8-9月です。今アザミウマによる食害で苦しんでいる人は、もっと早くから予察と防除に心がけ、施設周辺のキク科雑草は開花する前に除草しておく必要があります。

 

 

 詳しくは 役立つ病虫害の話「ミカンキイロアザミウマと戦う基礎知識」も参考にしてください。

(2013年6月14日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • キクわい化ウイロイドフリー苗生産実現のために
  • 2012.10.26

 

 キクわい化ウイロイド(CSVd)は主に矮化症状を引きこす病原で、キクに感染してもキクを枯らすことなく、気づかないうちに蔓延してしまうやっかいな病害です。
 遺伝子診断技術だけでは最初の感染源がどこにあって、いつ、どう広がったのか、なかなか突き止められません。その理由は、ウイロイド病は一般的に感染から遺伝子診断で検出できるようになるまでの期間が長く、遺伝子診断で検出された時の数カ月前に感染していたことになるからです。
 そのため、苗生産用の親株はかならずCSVdも含めた病害フリー株でなければなりません。

 

遺伝子診断でCSVdフリー株と判断するには

 キク親株がCSVdフリーかどうか調べるには、PCR法を用いた高感度な遺伝子診断技術で調べれば、2、3日で結果が出るとお考えの方が多いと思います。作業自体は確かに2、3日で終わり、CSVd検出の有無まで結果が出ます。しかし検出されなかったからといって、CSVdフリーと言えるかというと、そう単純ではありません。高感度な遺伝子診断でもCSVdがキクに感染する機会があってから遺伝子診断で検出できるようになるまでに潜伏期間があり、その間新たな感染機会がないように、検査対象のキクを隔離栽培しておく必要があるからです。これはどんなウイルス・ウイロイド病害でも同じです。ウイロイド病はウイルス病より一般的に潜伏期間が長いためやっかいなのです。

 

図1 ウイロイドフリー株と判断するまでの流れ

図1 ウイロイドフリー株と判断するまでの流れ
注:図中の期間は私がある品種で試験的に実施した例であるが、検出できない潜伏期間は品種、栽培環境、検査方法によって差が見られるので注意が必要

 

 そのため、図に示したようにウイロイドに感染した個体が混じった集団からウイロイドに感染した個体を選別して廃棄し、ウイロイドフリー個体の集団になったと判断するには最低でも9ヶ月かかると考えています。もちろん期間を通してウイロイドが発病しやすい高温長日条件で栽培することが前提です。
 このように母本にウイロイド感染個体が混入すると、それを排除するために大変な作業をしなければなりません。ゆえに苗生産の元となる母本をどう維持していくかが重要なのです。

 

 弊社が販売するキク品種の母本はウイロイドに対しても非常に優れた管理がされています。その優れた母本をもとにした苗生産現場についても定期的にサンプリング検査を行っています。だから自信を持ってキク苗を販売できるのです。

(2012年10月26日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • キク茎えそウイルス (Chrysanthemum stem necrosis virus : CSNV) について
  • 2012.9.14

 

 キク茎えそウイルス(CSNV)はミカンキイロアザミウマで媒介され、キクに対しキク茎えそ病を引き起こすウイルスです。CSNVはTomato spotted wilt virus(TSWV、トマト黄化えそウイルス)やImpatiens necrotic spot virus (INSV)と同じトスポウイルスに属する病原ウイルスで、90年代後半にブラジルで最初に見つかり、2002年以降にオランダ・イギリスなどで確認されましたが、いずれもブラジル産の苗が発生源と推定されているようです。国内では2006年に広島県で始めて発生が報告されて、急速に広がり、2012年9月現在では、少なくとも22都道府県で本ウイルスの発生が確認され、初発から6年間で国内のほとんどのキク切花産地に広がってしまっている状況です。

 下の写真はどちらがウイルスによる症状かわかりますか?写真Aは退緑・えそ斑が1株だけに見られ、その周辺は健全な個体でしたが、写真Bは近隣の株にも茎えそ症状や退緑斑が確認されました。

 

写真 ネ生理障害(A)とキク茎えそウイルスによる症状(B)

図1 生理障害(A)とキク茎えそウイルスによる症状(B)
A: 退緑・えそ斑   B: 退緑斑および茎えそ症状

 

 実は写真A、Bのどちらもキクにえそ症状を引き起こす病原ウイルスとして知られているTSWVやINSVの簡易診断キット(商品名:イムノストリップ Agdia社)には反応しませんでした。
同じようなえそ症状を引き起こすCSNVに対しては簡易診断キットがないため、遺伝子診断(RT-PCR法)を写真A,Bともに実施してみたところ、症状が広がりを見せていた写真Bの方でキク茎えそ病を引き起こすCSNVが検出されました。

 このようにウイルス病害は目視だけでは生理障害と見分けることが難しいため、専門の機関に調査を依頼されることをお勧めします。

 

CSNVが感染する植物の範囲:

 2008年頃まで、CSNVはキク以外にトマトでのみ感染することが報告されていましたが、2009年に富山県農林水産総合技術センターから、CSNVがアスターやトルコギキョウにも感染し病害を引き起こすことが報告されました。同センターはCSNVの汁液接種試験を行い、ナス科、キク科、マメ科、アカザ科、ツリフネソウ科、ウリ科、ツルナ科、ヒユ科の8科25種の植物にCSNVが感染することを確認し、ホウレンソウ、ピーマン、トマト、シネラリアなどには激しいえそ症状を引き起こすことを明らかにしています。

 

発病しやすい条件:

 CSNVが感染していても親株の状態では病徴を示さないことが多く、この親株を自家育成し続けると感染が広がる場合があります。キクの切花産地では一度発病すると、ミカンキイロアザミウマを媒介して広がるため撲滅するのがきわめて難しいウイルス病です。

 

診断のポイント:

 本病害の病徴は 茎に明瞭なえそ症状、葉には退緑・えそ症状を生じます。出蕾する頃にはっきりすることが多いです。

 

伝染原と対策:

 CSNVはミカンキイロアザミウマを媒介昆虫として多くの野菜と花卉、雑草にも感染することが明らかにされました。それが次の伝染源になる可能性があります。また自家育成している親株が感染源の可能性もあるので、注意が必要です。


対策としては

1.

信頼できる種苗を使う。

2.

感染の疑いがある親株等はすみやかに廃棄する。

3.

施設周囲の除草、感染植物のすみやかな廃棄。

4.

薬剤散布による媒介昆虫ミカンキイロアザミウマを含めたアザミウマ類の防除。
こちらも参考に>>役立つ病虫害の話 「ミカンキイロアザミウマと戦う基礎知識」

5.

施設開口部への防虫網の設置により媒介昆虫の侵入防止。

6.

本病が多発した場合、必ず土壌中に残ったアザミウマの蛹を殺してから次作の定植を行う。

 

 弊社が販売するキク苗を定期的にサンプリング検査していますが、CSNVを含めたトスポウイルス属やキクに感染が報告されているその他のウイルス種が検出されたことはなく、ジャパンアグリバイオは自信をもって弊社の苗を販売しております。

(2012年9月14日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • ジャパンアグリバイオが自信をもってウイルス・ウイロイドフリーキク苗を販売できる理由
  • 2012.2.3

 

 日本農業新聞2012年1月24日版に「イチゴ苗“健康診断”技術確立 千葉県などの研究グループ」という記事を目にしました。気温が低い時期は発病せず外観からは判断できないイチゴ萎黄病菌の有無を遺伝子診断法の1つであるPCR法を使って迅速かつ高感度に検出する方法を新たに開発したということです。「健康診断技術確立」という表現は斬新だと思いました。


 実はジャパンアグリバイオでも、PCR法という技術を使ってキク苗生産現場の定期的な健康診断を行っています。

 キクでは採穂作業で広げてしまうキク矮化ウイロイドやミカンキイロアザミウマで媒介するキク茎えそウイルスなどが問題になっており、ウイルスおよびウイロイドが感染してからでは治療ができず、植物を廃棄するしかありません。もし苗生産現場でこれらが蔓延してしまえば採穂用の親株の全量廃棄という最悪な状況になりかねないからです。


 我々の健康診断技術は採穂する親株がたとえ200株に1株という極低率な割合でウイロイドまたはウイルスが感染していても検出でき、迅速に対応できる体制を取っています。

 

 これは他社にはない優位点で、ジャパンアグリバイオが自信をもってウイルス・ウイロイドフリーキク苗を販売できる理由です。

(2012年2月3日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • キク矮化ウイロイド(CSVd)問題と対策
  • 2011.8.12

 

 すべてのキクはすでにウイロイドを保毒しているのでは? という話を聞いたことがあります。それはウイロイド感染が知らない間に広がり、感染させたという実感がないことが原因だと思います。

 しかし、欧米の種苗会社が供給する苗をウイロイドが増えやすい高温長日下で栽培しつづけた後、感度の高い遺伝子診断を行ってもほとんどウイロイドを検出することができません。つまり欧米の種苗会社はウイロイドフリー苗生産技術を持っているということです。

 今回はキク矮化ウイロイド病について少しでも理解を深めてもらいたい、という思いを込めて、私が色々勉強したことを紹介したいと思います。


1)キク矮化ウイロイドはいつ世界中に広がったのか?

 The American Phytopathological Society(アメリカ植物病理学会)の『The Disease Compendium Series』を読んでみると、「1950年代にはアメリカ国内およびオランダ、1970年代までにはヨーロッパ各国に次々と広がり、キク切花生産に大きな損害を生んだ。」とありました。戦後、日本から持ち帰ったキクからキク矮化ウイロイドが世界に広がったと予想できます。

 欧米の数少ない種苗会社が集中的に苗を生産し、その苗を世界中に販売した。その生産現場がウイロイドで汚染されていたため、世界中に感染が広がったのです。

 このような苦い経験から欧米の種苗会社が苗生産体系を見直し、現在では、欧米種苗会社か管理する苗からキク矮化ウイロイドが検出されることはほとんどなくなりました。

 1950年度以降、なぜウイロイドが容易く広がったのか? 種苗の流れも世界規模になったことに加え、キク矮化ウイロイドの特性を知ると良くわかります。


2)キク矮化ウイロイドの特性

●キク矮化ウイロイドはタンパク質を持たず、非常に分解されにくいRNA分子である。

●感染個体の汁液は 以下の条件でも感染性を保持している。

 ・10000倍に希釈  ・100℃で10分間ボイル   ・3℃で100日間

 ・21℃で60日間  ・氷結状態で120日間

●葉全体を100%エタノールに2日間浸けても、感染性を保持する。

●バッファーで抽出し、超音波処理を15分行っても感染性を保持する。

●第三リン酸ソーダ、ホルマリンでも、すぐに感染性を消失させることができない。

つまり低濃度でも感染し、非常に分解されにくいという特性を持つために、非常に強い感染拡大力を持つと言えるでしょう。


3)伝搬方法は

・汁液伝染、接木、萎れによる接触、根の絡み癒着、種子伝搬

・採穂・ピンチ作業・花芽詰み・パッキング・輸送などの作業で汚染された人の手、刃物、作業台などで感染。


4)感染から発病

・キク矮化ウイロイドは通常、局部病徴(斑点、シミ、ちぢれ)を示さない。

・キク矮化ウイロイドを葉に接種すると35-45日で接種葉から茎の方に移動し、全身感染までに4ヶ月かかる。

・それゆえ感染したばかりの植物から切花を切ることに影響はない。

 しかし、健全に見えるその感染株を次の増殖母株とすると問題が発生する。


5)防除・対策

・信頼できる種苗業者からのウイルス・ウイロイドフリー株を親株に使用し、定期的に更新すること。

・作業前と後は必ず手を洗い消毒すること。(持ち込まない・持ち出さない)

・管理区分を設け、区分ごとに確実な器具および手の消毒を実施すること。(拡散防止)

【器具の滅菌法】

 火炎滅菌や1%以上の次亜塩素酸ナトリウムが有効

 キッチン消毒用のブリーチ(商品名)は次亜塩素酸ナトリウムを5%含んでいます。

【手の消毒】

 素手なら石鹸の使用と十分なすすぎを。使い捨てビニール手袋も利用できる

・土壌消毒時は残渣をできるだけ取り除く。消毒後は土壌水分を保ち、残った残渣を腐敗させる。


 

最後に

 以下の写真は、ウイロイドを感染させた株と未感染株の品種による違いの写真です。

両品種とも接種区は接木接種で感染させた株(遺伝子検査で感染を確認済み)から採穂し、発根させた苗を定植後、24日目(2011年8月1日現在)のものです。


ウイロイドを感染させた株と未感染株の品種による違いの写真

ウイロイドを感染させた株と未感染株の品種による違いの写真


 品種Aの接種区では、未接種区に比べ明らかに立葉になっています。品種Bでは接種区と未接種区に明らかな差がみられませんでした。品種Bは品種Aにくらべキク矮化ウイロイドに耐病性があると言えそうです。

 しかし品種Bもウイロイドに感染しているわけで、感染源になる可能性が大です。つまり耐病性品種ではウイロイド問題の根本的解決にはならず、種苗会社として最も重要なのはウイロイドフリー苗を供給できる体制なのです。

 

(2011年8月12日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • キクネグサレセンチュウ類について
  • 2010.10.29

 

キクを連作していると年々生育不良や不揃いが増え、慢性的な被害に悩まされている方が意外と多いようです。 フザリウム、リゾクトニア、バーテシリウムなどの土壌病原菌が原因となることもありますが、土壌中の植物寄生性線虫が根を加害することでも、生育障害が発生します。そこで今回はネグサレセンチュウによって引き起こされる病害について紹介いたします。

 

写真 ネグサレセンチュウ診断 A:生育の不揃い B:根の褐変 C:根先端部の褐変 D:根褐変部や根圏付近の土壌を観察 E:根褐変部からのネグサレセンチュウ

写真 ネグサレセンチュウ診断 A:生育の不揃い B:根の褐変 C:根先端部の褐変 D:根褐変部や根圏付近の土壌を観察 E:根褐変部からのネグサレセンチュウ

 

キクに寄生するネグサレセンチュウはハリセンチュウ目、プラティレンクス科のPratylenchus penetrans(キタネグサレセンチュウ) やPratylenchus fallax(キクネグサレセンチュウ) が知られています。キクネグサレセンチュウは形態的にはキタネグサレセンチュウと極めてよく似ています。 ネグサレセンチュウの成虫の大きさは0.5mm程度、雌雄ともウナギ型です。幼虫・成虫ともに根に侵入することができます。主に根部の皮層部に侵入し、口針を使って根を加害します。


ネグサレセンチュウは随時組織内を移動し摂食を続け、組織を崩壊・壊死させます。その加害部には腐生菌(注1)や土壌病原菌が二次的に繁殖するので、被害を増幅させます。卵は組織内にばらばらに産み付けられるが、腐敗組織はセンチュウに忌避作用を示すため、健全部を次々と侵していきます。1匹の雌は200個程度産卵します。つまり根が加害されるために地上部の生育に影響がでるのが、ネグサレセンチュウによる病害です。

注1:腐生菌とは 生きていない有機物素材を栄養源として生活する菌類を言う


しかし、土壌中に生息するセンチュウには土づくりに欠かせない重要な存在である自活性センチュウも含まれています。自活性センチュウは落ち葉などの有機物を食べて分解し、土壌の腐食を増やし、土を柔らかくして根の張りやすい環境を作っています。作物にとって有害な植物寄生性センチュウを食べる、捕食性センチュウもいます。肥沃な土なら10アール当たり800kgもの自活性センチュウが生息していると言われており、その数が多い土壌ほど植物を加害するネグサレセンチュウが増えにくくなるとの事です。


ネグサレセンチュウと自活性センチュウを顕微鏡で見分けるのに、農業環境技術研究所のデータベースが役に立ちます。以下がそのサイトです。

http://www.niaes.affrc.go.jp/inventory/nemapics/


 

発病しやすい条件:

施設栽培では年中発病しますが、ネグサレセンチュウの発育適温は地温20〜25℃です。ネグサレセンチュウが好む作物を連作すると発病しやすくなります。有機物が少なく痩せた土壌では拮抗作用を示す微生物が少なくなるためネグサレセンチュウが増加しやすくなります。

 

診断のポイント:

いくつか根を掘り上げて根の褐変状況を確認する。 根や根圏付近の土壌を採取しネグサレセンチュウが分離されるかどうか顕微鏡を使って確認する。 但し、自活性センチュウと形態を見分けることが必要である。

 

伝染原と対策:

キタネグサレセンチュウは多犯性で、ダイコン,キャベツ,ハクサイ,ニンジン,フキ,ゴボウ,シソ,スイカ,カボチャなど寄生できる植物は350種以上に及ぶことが知られています。地下50㎝の所にも存在でき、寄主作物が作付けされると移動して根に寄生・加害します。土壌中では寄生できる植物がなくても、3年近く生存すると言われています。

 

 

対策としては
1. 健全な種苗を使用
2. 発生圃場から農機具などによるセンチュウの持ち込み防止
3. 被害植物残渣を残さない。
4. 多発でなければネマトリンやアドバンテージなどの粒剤も効果が高い。
5. 蒸気消毒 および クロルピクリン剤、D-D剤による土壌消毒
6. 湛水処理(夏季のみ):湛水した後、ハウスを密閉し、地温の上昇をはかる、処理は約20日間。
7. 対抗植物としてマリーゴールド(アフリカントールやフレンチ種)を栽培しすきこむ。

 

 

最後に、ネグサレセンチュウ対策にも土作りが大切です。有益な自活センチュウがたくさん存在する微生物相の豊かな土壌では、植物寄生性センチュウが増えにくいという情報もありました。やはり、有機質が少ない痩せた土壌はライバルとなる自活センチュウも少なく、植物寄生性センチュウにとっては楽園のようです。

(2010年10月29日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • キク葉枯線虫病について
  • 2010.6.25

日本は6月から約1ヶ月半、また季節が変わる9-10月も雨量が多くなる時期です。このような時期はさまざまな病気が発生しやすくなります。葉枯れ症状に対して殺菌剤散布をしても効果がないなど、何の病気か頭を悩ませることはないでしょうか。

 

そこで今回は葉枯れ線虫といわれるAphelenchoides ritzemabosiAphelenchoides fragariaeによって引き起こされるキク葉枯線虫病について御紹介します。

 

キク葉枯線虫病の写真

 

写真 キク葉枯れ線虫病

A: 葉枯れ症状が見られる植物全体 B: 茎には症状がないC: 葉脈に沿ったV字型病斑

 

 

葉枯れ線虫の生活環

 

発病しやすい条件:
排水性の悪い土壌、比較的多湿な環境で、頭上潅水など植物が濡れている時間が多い、温度は15〜26℃で多発生しやすいと言われています。一度発病した圃場では感染した植物の残渣で線虫が生き残るため、土壌消毒をしないと、再発しやすくなります

 

診断のポイント:
キク葉枯線虫病の病徴は葉脈に区切られた扇形または角型の比較的大型の褐色病斑を形成し、病斑は下葉から上葉に向かって広がっていくのが特徴です。本病害は根や茎の導管に褐変が見られないので、半身萎凋病やその他の土壌病害と見分けることができ、茎にえそ症状が出ないことからTomato spotted wilt virus (TSWV) やChrysanthemum stem necrosis virus (CSNV)によって引き起こされるえそ症状と見分けがつきます。

 

伝染原と対策
特にAphelenchoides fragariaeはキク科だけでなく広範囲の植物に寄生すると言われており、50科250種以上の植物に報告があります。


線虫がいても病徴を示さない品種もあり、葉枯れ線虫に対する耐性度合いは品種によって違いがあります。感染した植物残渣が残った土壌や無病徴の親株などが感染源になることもあります。
感染植物体上では線虫は葉の組織内や葉の裏に存在し、人や水はねによって広がっていきます。また薄い水膜がある状態では植物体表面を上に向かって泳いでいく習性があります。
線虫自体は温度および湿度変化には耐性があり、植物乾燥残渣でも無代謝の状態(cryptobiosis)に変化し長期間生存可能です。

 

対策としては
1.感染植物残渣が付着した設備なども感染源になるので、施設内を綺麗に保つ。
2.切花生産や親株を管理する温室の土壌消毒を実施する。(クロロピクリンとD-D剤の併用が効果的)
3.健全な苗を使用する。
4.生育期に発生が見られた場合、アオバ液剤の潅注(植物生育期の葉枯れ線虫に対する唯一の防除薬剤)
5.局部的に線虫が存在するため、葉枯れ症状が出た葉を取り除くと効果がある。
6.キク以外に感染源がないか注意する。
7.できる限り、頭上からの潅水を控える。

 

いくつかの手段を総合的に組み合わせて対策してみてください。きっと防除効果が期待できます。なお、ウイルス病、かびによる病害とは対処も異なってきますので、「下葉からV字型の葉枯れが進む」等の異変に気づいた場合には専門の機関に調査を依頼されることをお勧めします。

(2010年6月25日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • キクピシウム立枯病について
  • 2010.5.28

ピシウム菌(Pythium)は卵菌綱、フハイカビ目、フハイカビ科に属する菌で、ちなみに疫病を引き起こすファイトフトラ菌(Phytophthora)も同じフハイカビ科に属する菌になります。卵菌綱の特徴は細胞壁の主成分がセルロースでフザリウム菌(Fusarium)リゾクトニア菌(Rhizoctonia)などの菌類(細胞壁はキチン)と分類上大きく異なり、防除効果のある農薬にも違いがあります。
その他に菌類と大きく違う点はピシウムを含む卵菌綱は遊走子を作り、水中を遊泳し広がる能力がある事です。そのため圃場への雨の流れ込み、排水性が悪い圃場、またキク直挿し栽培では、発根のため十分灌水した後ビニール被覆するため、生育初期にピシウム立枯病が発生しやすい傾向があります。

 

発病しやすい条件:

多湿・排水性が悪く水がたまりやすい圃場で多発しやすい。また直挿し栽培でも発生しやすい。発病適温は25-35℃で真夏の高温期でも発生しやすいので注意が必要です。

 

A:立枯病が発生した圃場(定植2週間目)写真 B:立枯れを起こしたキク写真 C:茎の腐敗部に形成された遊走子のう(400倍)写真 D:遊走子(600倍)写真

写真 キクピシウム立枯病

A:立枯病が発生した圃場(定植2週間目)     B:立枯れを起こしたキク

C:茎の腐敗部に形成された遊走子のう(400倍)

D:遊走子(600倍)>>動画(YouTube)http://www.youtube.com/watch?v=zUffFNaX304

 

診断のポイント:
ピシウム立枯病は地際部の茎表面から上部に向かって徐々に褐変し、根および主根も褐変し、根量は大幅に減少する。直挿し栽培では定植初期に地際部が侵され植物体全体が萎凋し枯死することが多い。

 

伝染原と対策:
土壌中の罹病残渣や感染植物が伝染源となります。また根に卵胞子を形成し土壌中に病原菌が残りこれが翌年の感染源にもなります。またピシウム菌は多湿条件では遊走子を形成して広がり、地際部や根部から感染します。
一般的に土壌の有機物が減り、菌相が単純化すると病原菌と競合する有用菌が減り、病原菌に対し抵抗力のない土壌になってしまうので、土作りも大切です。

 

対策としては
1.土壌消毒を行う。
2.ピシウム菌を増やすような未完熟堆肥の投入をしない。
3.圃場の排水性を改善する。灌水量を適度に保つ。
4.発病初期ならPythiumPhytophthoraなどの卵菌に効果のある薬剤を灌注する。
5.罹病残渣は圃場に残さず処分する。
6.対策を組んでも発病する場合、直挿し栽培をしない。

 

事前の土壌消毒が重要で、地際部茎の褐変あるいは株全体の萎凋が見られたら,すみやかに株を処分することが大切です。

(2010年5月28日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • キクえそ病(Tomato spotted wilt virus)について
  • 2009.11.20

 

今回はTomato spotted wilt virus(TSWV)によって引き起こされるキクえそ病について紹介いたします。キクのTSWVによるえそ病の発生は1993年に静岡県で初めて確認されましたが、TSWVの国内初感染はもっと早く、1970年にダリアで報告されていました。

 

■発病しやすい条件:

 本病は感染しても無病徴の品種もあり、この親株から自家育成し続けると感染が広がる場合があります。キクの切花産地では一度発病すると、アザミウマ類を媒介して色々な植物に感染するため撲滅するのはきわめて難しいウイルス病です。

 

キクえそ病の写真

写真 TSWV感染の典型的な症状がみられるキク

A:株全体の葉に退緑斑が見られる  B:退緑斑の中に輪紋がみられる C:えそ条斑を伴った病徴で葉の湾曲が見られる

 

■診断のポイント:
本病害の病徴には葉の退緑斑点、 輪紋、葉の湾曲、えそなどがあり、ひどい場合には茎にもえそ条斑が発生します。病徴は生育初期からも現れますが、出蕾する頃に最もはっきりすることが多いです。しかし病徴の出方は品種によって異なり、ほとんど病徴を現さない品種もあります。また生育温度が低いと病徴が現れない傾向があります。


TSWVの診断には、市販のイムノクロマト法による簡易診断キットなども利用できます。但し、似たような病徴にはキク茎えそ病(Chrysanthemum stem necrosis virus)もあるため、診断キットの使用には注意が必要です。

 

■伝染原と対策:

キクえそ病の病原ウイルスであるTSWVはアザミウマ類を媒介昆虫として多くの野菜と花卉、雑草にも感染します。それが次の伝染源となってしまいます。また自家育成している親株が感染源の可能性もあるので、注意が必要です。


対策には、施設周囲の除草、感染植物のすみやかな廃棄、薬剤散布による媒介昆虫ミカンキイロアザミウマ、ヒラズハナアザミウマおよびミナミキイロアザミウマの防除があります。また施設開口部への防虫網の設置により媒介昆虫の侵入を防止する方法も有効です。本病が多発した場合、必ず土壌中に残ったアザミウマの蛹を殺してから次作の定植を行ってください。

 

あなたの圃場は大丈夫ですか?TSWVからの被害を最小限に抑えるためには、総合的な視点からの対応が必要です。

(2009年11月20日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • キク白さび病:DNAマーカーによる抵抗性品種の検定システムについて
  • 2009.7.24

 

前回に引き続き、キク白さび病についての話題です。白さび病(英名 White Rust *1 )はキクの重要病害で、世界中のキク生産地でその発生が見られます。そして、キク生産の中心地域であるオランダでは、この白さび病が日本からキクの品種と伴に伝播したことから、『Japanese Rust ジャパニーズ ラスト』と、少々ありがたくない名前で呼ばれています。

*1:Rust(ラスト)とは、さび病のことです。

 

キク白さび病の病徴写真

図1:キク白さび病の病徴

今回はこの白さび病に対する抵抗性品種を見極める方法として開発された、DNAマーカー *2 を用いた効率的な検定システムをご紹介します。

*2:DNAマーカーとは、特定のDNA領域のことです。

 

■キク白さびの発病

白さび病はPuccinia horiana Henn. というカビによって発生し、葉の表側に淡緑色の斑点、裏側に次期伝染源の胞子を作る冬胞子堆と呼ばれるイボ状の斑点を形成します(図1)。少量の発生でも商品価値を損なうことから経済的被害が大きく、キク生産では最も恐れられている病害です。このため抵抗性品種の作出が強く求められています。

 

■生物検定による抵抗性品種の検出

現在、抵抗性検定としては、冬胞子堆で形成される感染源(小生子)を植物体に接種し、その発病程度を確認する生物検定が一般的です。

図2はこの一例ですが、病徴が見られない品種H、Iが抵抗性品種と判定されます。

しかし、1品種で複数の検定用植物が必要、検定数に限界があること、そして判定まで約3ヶ月を要することなど、様々な問題が伴いました。

 

■DNAマーカーによる検定システムの開発と利用

新たな検定システムの概要は、DNAマーカーによって抵抗性遺伝子と連鎖するDNA断片を確認するものです。開発にあたっては、抵抗性と罹病性(病気にかかる品種)を交雑した後代の中から、抵抗性と罹病性の個体を選定し、その特定領域のDNA配列比較によって抵抗性と強く連鎖するDNA断片(DNAマーカー)を明らかにしました(図3)。

このDNAマーカーを用いたシステムにより、少量サンプルかつ2日程度での効率的な白さび病抵抗性品種の検定が可能になりました。

DNAマーカーによるキクでの検定システム実用化は世界初の取り組みで、業界では大変注目されており、抵抗性品種開発の加速が期待されます。

 

弊社では、今後もキク白さび病のような花きの主要病害に対する抵抗性品種の開発に取り組むとともに、健全で高品質な苗をご提供できる体制を強化していきます。

 

キク白さび病抵抗性品種の選抜の写真

図2:キク白さび病抵抗性品種の選抜

 

DNAマーカーによる抵抗性DNA断片の特定例図

図3:DNAマーカーによる抵抗性DNA断片の特定例

(2009年7月24日)

[ TEXT:工藤 博司 ]

  • キク 白さび病《診断方法と防除対策》
  • 2009.6.26

キク白さび病は主として葉部に発生し、著しく切花キクの商品価値を低下させるキクの重要病害で、担子菌類に属するパクシニア ホリアナ(Puccinia horiana Henn.)という糸状菌によって引き起こされる病気です。夜間の湿度が高くなりやすい時期に多発し、夜間の相対湿度の低くなる冬季の施設栽培、梅雨明けから8月末の高温になる時期は発病が少なくなります。

 

症状写真

A:感染から13日目  B:罹病葉の表側  

C:罹病葉の裏側   D:冬胞子堆    

E:冬胞子堆をピンセットでつまみとり顕微鏡観察 

F:冬胞子堆の拡大 

■症状:

本菌の発病適温は20度前後の温度で、この条件では感染してから7〜10日後に直径1mm程度の乳白色の小斑として現われ始め、さらに4〜7日後には葉裏に冬胞子堆を形成し始めます。病斑が多数形成されると、葉が変形し巻き上がり、株の生育が抑えられることもあります。

 

■診断法:

葉表面から円形・白黄〜黄色の斑点が見え、その反対の葉裏側に灰白色から灰褐色、黄褐色(水分が多い場合)の冬胞子堆が確認されれば、白さび病と判断できます。大きな冬胞子堆のまわりには小さな冬胞子堆が輪のように生じることもあります。

病斑は葉表面から見ると黒さび病と似ていますが、黒さび病では葉の裏の隆起が茶褐色〜暗褐色と黒っぽいため容易に区別できます。

 

■感染条件と防除対策:

20度前後の気温では罹病葉の葉裏側に形成された冬胞子堆に水膜ができるような90%以上の高湿度条件が6時間以上つづくと、冬胞子から小生子が形成されて飛散し、新しい葉に感染し始めます。また、気温が低い季節は、罹病葉に形成した冬胞子堆が、枯れ葉の状態になっても3〜4ケ月間小生子を形成し、感染能力をもつと言われています。

 

■対策については、

1. 葉が濡れるような高湿度が数時間続くような状況は出来る限り避ける。
2. 罹病葉は見つけ次第処分、罹病した葉は枯葉も残さないようにし、治療効果のある薬剤(クレソキシムメチル剤やミクロブタニル剤等)を交互に1週間おきにていねいに散布し治療する。
3. 定植後は有機硫黄剤などを7〜10日間隔で予防散布しておく。

以上のことを考えて管理すると、かなり白さび病による被害を軽減できると思います。

また、農薬が効かない耐性菌が蔓延するのを防ぐためには同じ農薬を連用することを避けた方がよいでしょう。

 

文中にある農薬の登録状況は原稿を作成した時点のものです。使用に際しては、必ず登録の有無をご確認ください。今まで使っていなかった農薬を使用する際は、お近くの種苗専門店や農協、公共の指導機関とも御相談ください。

(2009年6月26日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • キクわい化病について
  • 2009.2.27

キクわい化病罹病株の写真

キクわい化病罹病株

 

電子顕微鏡写真

電子顕微鏡写真。黒い輪がウイロイド

 

 

今回は、『ウイロイド』という最小の植物病原体によって引き起こされる、キクわい化病についてご紹介します。

 

キクわい化病:

キク切り花生産地において、近年キクわい化病( Chrysanthemum stunt disease )の発生が大きな問題となっています。本病害に感染すると、草丈が著しくわい化症状(植物全体が小さくなる)を示し、正常の1/2〜2/3の長さとなります。そして開花も通常より早くなり、花も小型になることから、切り花としての商品価値を完全に失います。

 

病原体ウイロイド:

この病原であるキクわい化ウイロイド( Chrysanthemum stunt viroid )は、1本鎖環状RNAからなる最小の植物病原体です。長さは約100nm(ナノメートル、1nmは1mmの100万分の1)で、一番小さいウイルスの10分の1程度の大きさです。

このウイロイドは、当初『ウイルス』の一種と考えられていましたが、病原体の外側を包むタンパク質を持たないことなど種々の性質が異なり、『ウイルス様病原体=ウイロイド』と命名されました。ジャガイモの病害(やせいも病)で初めてその存在が明らかになり、その後、キク、トマト、ホップ、ブドウ、カンキツなど複数の植物種で発見され、その感染状況が明らかになってきています。

 

キクわい化病の伝染と防除:

切り花生産に挿し穂を用いるキクの場合、一度ウイロイドに感染した母株から病原体を除くことは非常に困難で、感染した挿し穂が栄養繁殖によって容易に増えます。ウイロイドに感染すると、始めは外観が健全であるものの、一定期間を経て突如わい化症状を示すことが多く、目視による判断が容易でないことも発生を助長する一因になっています。また、温度変化など外的環境に強く、農薬も効きません。そして茎頂培養によるフリー化も現実的にはまだ改良が必要な状況です。

このため、防除方法としては、圃場でわい化症状あるいは疑わしい株を完全に抜き取り、葉・茎などの残渣を圃場に残さないことが大切です。また、ウイロイドは植物の汁液で伝染しますので、罹病株に使用した鎌、はさみは火炎殺菌などで必ず消毒しなければなりません。

 

ウイロイドを防ぐためには、ウイロイドに感染していない健全苗を安定生産し、それを供給していくことが大切です。これからも生産者の皆様に安心してお使い頂ける高品質苗の生産に向けて、努力していきます。

(2009年2月27日)

[ TEXT:工藤 博司 ]

  • キク茎えそ病(仮称)について
  • 2008.7.1
キクわい化病罹病株の写真

今回はキク茎えそ病(仮称)についてです。「キク茎えそ病(仮称)」は、90年代以降日本各地のキク産地で問題となっている、「キクえそ病」の病原ウイルスであるTomato spotted wilt virus (TSWV、トマト黄化えそウイルス)と同じトスポウイルスに属するものの、別種であるChrysanthemum stem necrosis virus (CSNV、キク茎えそウイルス)による新病害です。

症状:
茎のえそ、葉のえそ・退緑といった、TSWVによるキクえそ病と極めて良く似た症状を示し、症状による両者の区別は困難とされています。ただ、キクえそ病より症状が明瞭な傾向があるようです。
(写真はTSWVによるキクえそ病です。)

 

発生状況:
  CSNVは90年後半にブラジルで最初に見つかり、その後2002年以降、オランダ・イギリスなどで確認されましたが、いずれもブラジル産の苗が発生源と推定されているようです。日本では2006年に広島県で初めて見つかり、その後現在までに栃木・千葉・群馬・熊本での発生が確認されています。えそ症状を示すもののTSWVが検出されない事例でこのウイルスが病原であることが確認されてきています。今後、さらに他地域での発生が確認されるかもしれません。

伝染:
国内での媒介者は専らミカンキイロアザミウマで、ヒラズハナアザミウマはほとんど媒介能を持たないとの報告が最近ありました。キク以外の宿主としてはトマトが知られています。

キク茎えそ病はキクでの症状自体はキクえそ病と類似しており、あまり区別の必要性は無いかもしれませんが、病原ウイルスであるCSNVの宿主となる作物や雑草、その他諸特性がTSWVと大きく異なる場合には両者の区別もキクの栽培上も重要となり得ます。今後の研究が待たれます。

(2008年7月1日)

[ TEXT:縄田 治 ]

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