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役立つ病害虫の話

  • 役立つ病害虫の話
  • Disease And Insect Damage

ジャパンアグリバイオの研究員が、皆様に役立つ病虫害の情報を連載します。

役立つ病虫害の話

バックナンバーの情報につきましては、発表当時の内容をそのまま掲載しております。文中の農薬に関しましては必ず最新の登録状況をご確認ください。今まで使っていない農薬を使用する場合は、お近くの種苗専門店や農協、公共機関ともご相談ください。

  • 花き類に病害抵抗性品種が少ない理由
  • 2015.8.28

 

 病気に強い品種がほしいという要望をよく聞きます。しかし、穀類や野菜類に比べ花き類全般は病害抵抗性品種が少ないのが現状です。なぜそうなったのでしょうか?
 それは花き類品種改良の優先事項が 病害抵抗性ではなく、花の美しさ、色のバリエーションにあったからだと考えられます。

 

野生種園芸種
生育地自生地生産者 育種家 種苗会社
花色の幅小さい広い 変異が蓄積されている
花のサイズ小さい大きい
病気に対する強さ強い比較的弱いものが多い
集団の特徴自然の中で生き残れる形質を持つ観賞価値の高いものが選ばれ品種化されている

 

 切花品種の改良を行う際、病害抵抗性についての評価を最初の選抜の段階で行っているケースはほとんどありません。花色の拡大 花形の拡大、新規性に注力してきたためです。
 新しい花色 花形 バリエーションが増えることで花き品目としての価値が高まるのですが、成熟した品目や苗代が高い栄養系品目についての次のターゲットは病害抵抗性による切花生産性の向上ではないかと考えています。

 しかし、改良目標に病害抵抗性を上げさえすれば、そのような品種が作出できるほど簡単なものではありません。
 その理由の1つは、花き類の園芸品種には すでに病気に対して抵抗性を持つ遺伝子が脱落してしまっている可能性が高い事です。そのため野生種から病害抵抗性の育種素材を探さなければならない場合もあります。また、病気に強いかどうかを正確に評価する方法を確立する必要もあります。

 花き類の園芸品種の病害抵抗性育種の代表的なものには カーネーション萎凋細菌病抵抗性とキク白さび病抵抗性育種があります。これらは20年以上研究を続け、病気に強い形質を評価する方法を確立し、抵抗性を持つ交配親となる素材を見つけるという大きな課題をクリアし、品種改良が進められています。しかし、病原菌も多様に分化しており、すべての病原菌に対して抵抗性を示す品種を育成するにはまだまだ時間がかかるようです。

 現実的には、花き類の病害防除については今もなお農薬の使用、発病環境を作らない、植物を健全に育てる事などの総合的防除の考え方が一番重要です。

(2015年8月28日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • 日本植物病理学会は2015年で創設100周年
  • 2015.4.30

 

 

 今回は私が入会している日本植物病理学会のお話をしたいと思います。

 日本植物病理学会は大正5年(1916年)12月に創設され、2015年で創立100周年となりました。日本の農業関係の学会では長い歴史を持つ学会です。 ちなみに、1845年にアイルランドで大発生したジャガイモ疫病が世界中に広がり、50年間も世界を苦しめました。日本は米が主食ですので、イネいもち病の方が重要です。かつては日本でもたびたび大きな被害が出ていました。
 現在、飢饉になるほどの病気の大発生は日本ではほとんどありません。これは国内での研究の成果だと思います。

 

 

日本植物病理学会とは何をしている学会なのか

 植物病理学会は、「植物を病気から如何にして守るか」を命題に、植物の病気について真理を探究しながら、得られた知見を農業生産に貢献することを目的とする学会です。
 植物の病気にはウイルス病、細菌病、ファイトプラズマ病、菌類による病気と多くの原因があり、広範囲の生物を対象にしなければなりません。植物側も米、野菜、花き、果樹、樹木など多彩です。
 そのため、一人の専門家だけでは対応できないことが多く、学会という組織を作り、皆で助けあいながら問題解決していく必要があったのだと思います。

 日本植物病理学会では、病原体の伝染方法・増殖機構、病原体と植物の相互作用、植物の病害抵抗性の機構などを明らかにして、病原体の診断・同定技術を確立し、植物の病気を防除する方法の開発、あるいは病害抵抗性品種の開発など、植物の病気に関わる基礎的および応用的研究を行っています。

 近年は分子生物学、分子遺伝学、植物バイオテクノロジーの発展が植物病理学の発展にも貢献し、私が担当している病害診断、ウイルス検査業務にも、遺伝子診断技術が応用できるようになりました。私が学生だった1990年頃の植物のウイルス検査は、ウイルスが感染していないか調べたい植物の磨砕液を、アカザ・グルチノーザ・ササゲなどの生物検定用植物に軽く擦りつけて、検定植物の反応を見るというものでした。この25年で植物のウイルス検査技術も大きく進展しました。

 

 

病害防除を植物病理学の観点から考える

 私が学生だった時、土壌病害の微生物防除を目的として、植物の根圏に生活し、病原菌に打ち勝つ能力をもつ細菌の分離を試み、分離した菌が植物に定着しやすい条件を探し、防除効果を確認するという研究をさせていただきました。研究は人工的な環境を作っての試験でしたが、有用菌を定着させることができれば、防除効果はあるとの結果でした。

 

写真 分離菌ABの抗菌活性(③)とその防除効果(⑧)(1993 豊田ら)

写真 分離菌ABの抗菌活性(③)とその防除効果(⑧)(1993 豊田ら)

③寒天培地上で分離菌がトマト萎凋病菌の菌糸生育を阻止している。⑧分離菌を根部に処理し、病原菌添加した土壌でその防除効果を調査した。

 

 

 この研究結果のように有用菌が本当に現場で役に立つのかは自分の中では不透明な状況でしたが、1991年に種苗会社に就職し、いろんな生産者の方々にお会いできて、土壌やその中の微生物の重要性を再認識する機会が幾度かありました。
 それは化学肥料に頼り切らない、土壌微生物のえさとなる堆肥などの有機物を土壌に補給することの大切さでした。土壌に微生物が豊富で多様性があると、土壌病害になりにくいことを社会に出て実感いたしました。

 病原菌を殺す殺菌剤を使っても状況を改善できない時、発病しやすい環境、栽培している品種を見直すことも重要になってきます。病害は主因(病原菌) 誘因(病原菌の好適な環境) 素因(病気にかかる植物)この3つが揃って発生します。これは植物病理学の基礎ですが、どれかを取り除くことができれば、連作障害などの問題を少しでも打開できるはずです。

写真の引用
豊田秀吉ら. 1993. Binary Microbe System for Biological Control of Fusarium Wilt of Tomato: Enhanced Root-Colonization of an Antifungal Rhizoplane Bacterium Supported by a Chitin-degrading Bacterium. 日植病報. 59: 375-386.

(2015年4月30日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • 病気に負けない健全な植物を育てるための基礎知識
  • 2015.1.30

 

 

 植物を営利的かつ健全に育てるためには、肥料が多すぎても、少なすぎても良くないことはよく言われますが、それを正確に判断するためには、肥料の事や植物生態の事をよく理解する必要があります。

 

 窒素-リン酸-カリ の成分が8-8-8という肥料があるとします。この8というのは成分が8%含まれるという意味ですが、重さ10kgの肥料だとすると、その中に800gの窒素が入っているという意味です。窒素には硝酸態窒素(NO3--N)アンモニア態窒素(NH4+-N)がありますが、肥料に表示される窒素含有量は窒素(N)そのものの重さで計算されています。
それに対して、リン酸はリン単体ではなくリン酸(P2O5)を示し、カリはカリウム単体ではなく酸化カリウム(K2O)の含まれる割合を示していますので注意してください。

 

 では窒素が1gあれば、植物は生体重で何グラムまで育つのでしょうか?植物の成分分析のデータから、一般的には乾燥させた100gの植物中に窒素は1.5g含まれると言われています。また植物の生体重は80-90%の水が含まれていると言われているので、計算すると窒素1gから生体重で330gから670gの植物が育つということになります。

 

 しかし、実際の栽培では、肥料の流出などもあり、施した窒素分すべてを植物が吸収し利用することはできません。うまく利用できない分を吟味して、計算上の量より多く施用する必要があります。どれくらい多くするかは、栽培前後で土壌分析すれば、おおよそ把握できると思います。

 

 また植物の生育に合わせて施肥することも重要です。
切花栽培を例にあげると、採花量が増える時期に十分な肥料がないと、丈が短くなる、茎が細くなる、花が小さくなる等の切花の品質低下につながってしまいます。逆に秋から冬にかけては、生育が緩慢になり、また採花量も少なくなるので、必要となる肥料分も少なくなります。

 

 これからの時期(2月から5月にかけて)は、植物の生育スピードは日ごと速くなってきます。土耕栽培ですと植物の重さを量るのは中々難しいですが、単位面積当たりに採花した切花重合計を測定し続けてみると、劇的に変化するのが感じ取れると思います。

 

図:隔離ベンチで栽培したリモニウム シニュアタの施肥量および潅水量

図:隔離ベンチで栽培したリモニウム シニュアタの施肥量および潅水量

 

 上記の図はリモニウム シニュアタ 切花栽培用品種を隔離ベンチで栽培した時の施肥量および潅水量の記録をグラフ化したものです。萎れないよう、切花のボリュームを維持するように追肥を行い、その栽培管理をデータ化したものですが、この時は、ほとんど植物が株枯れせず、5月の採花まで十分な切花ボリュームを維持することができました。

 品目や栽培方法、環境によって管理は異なりますが、こういった記録をとることは植物の生育に合わせた施肥管理をするために参考になると思います。

(2015年1月30日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • 検査と診断の違いについて
  • 2014.12.26

 

 

 筆者は病害診断を担当していますが、一番悩むのが、調子の悪い植物だけを持ってきて「その原因は何か調べ、対処方法を教えてほしい」といわれるケースです。

 

 「診断」とは植物に不調が生じた場合、その原因を多角的観点から調査し、その不調の主たる原因を導きだす行為です。また「検査」とは単に病気を引きおこす微生物等、不調の原因となる要素が確認されるか否かを調査する行為です。

 

 違いがわかりますか?

 

 調子の悪い植物サンプルがあれば、病原微生物の有無を調べることができます。つまり検査はできます。しかし、サンプルのみの情報で対処方法を決めることにはリスクが伴います。

 

 近年、遺伝子検査技術が発展してきて、それが万能なように思われている傾向があります。確かに迅速かつ、特異的、高感度に検査でき、今までできなかった検査が可能となり、大きな技術的進歩です。 しかし、遺伝子検査は高感度であるが故、不調の原因とならないくらいの低濃度でも検査対象の病原微生物を検出できてしまいます。遺伝子検査で病原菌が見つかったからといって、原因を特定できたと勘違いしないように気をつける必要があります。

 

 サンプルを検査して、もし原因となりそうな病原微生物が見つかったとしても、その病原微生物が本当に現場で問題となっている主因かどうかを正しく判断することはできません。他の情報がなければ、誤った診断結果を出すことにつながる場合があるのです。

 

 自分のことに置き換えると理解しやすいと思います。調子が悪くて病院にいったら、初診の場合は必ず問診を受けると思います。 いつから症状が出ていますか、熱はありますか、のどは腫れていますか? などお医者様もいろいろな情報を集めようとします。このような情報からどんな病気の可能性があるか考え、どんな検査をするのが適切か判断します。

 

 植物の病害診断もこれと同じことです。 正確な診断には、現場での問題の発生分布やいつからその症状が出始めたのか、現場の温度や湿度、土壌などの環境は、近接する他の品種や作物はどうなのか?このような情報が重要となります。

(2014年12月26日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • 病害虫発生予察情報について
  • 2014.9.26

 

 

 病害虫発生予察情報は各都道府県の病害虫防除所等が農業改良普及センターや農業協同組合等に対して発表するものですが、インターネット上の県のホームページから情報を得ることもできます。予察情報は基本的に深刻さが低い順から予報、注意報、警報、特殊報と4種類あります。また病害虫発生予察情報は都道府県によって主要な農産物が異なるため、情報を出している農産物や、病気・害虫も異なっています。

 

表1 病害虫発生予察情報の発表基準(千葉県)

表1 病害虫発生予察情報の発表基準(千葉県)

 

 

 病害虫防除は予防的対応が基本です。病害虫が発生しやすい時期は1年を通してだいたい決まっています。しかし、雨が多い時期に雨が降らない、気温が例年とは違う事も多く、病虫害の発生パターンは毎年同じではありません。そのため県が出す病害虫発生予察情報が重要になります。

 

 近年、農産物の輸入も増えており、これまで無かった病害が海外から侵入してくる機会が増えてきています。これまで発生していなかった病害が突然問題になる事も増えてきています。こういった情報は特殊報という形で情報提供されています。

 

 海外から新しく侵入してくる病害については在来種では抵抗性をもっていない場合が多く、大きな被害につながる可能性があります。そういったことから病害虫発生予察情報、特に特殊報はますます重要になってきています。

 

 国内種苗会社も他人事ではありません。近年、種苗生産を海外に依存する割合が増えてきており、ますます病害診断技術の重要性が増してきています。

(2014年9月26日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • 植物の輸出入と検疫について
  • 2014.2.28

 

 

 今回花き類の種子を海外から輸入する機会があり、植物検疫について調べてみました。

 

 近年、輸入切花の増加、国内で使う野菜および花の種子、苗についてもどんどん海外生産が増え、植物の輸入が増え続けています。つまり海外から新たな病虫害が進入してくるリスクが高まってきていると言えます。

 その対策として活躍している国の機関が植物防疫所であることはみなさんもご存知だと思います。
輸出入の際の検査において、見た目で虫や害虫が付いているようでは、もちろん検査に合格できず、消毒あるいは廃棄処分となってしまいます。また土は全ての国・地域から持込みができません。土の付着した植物も持ち込めません。土には目に見えない微生物が多く含まれており、その中には深刻な病害を引き起こす線虫、細菌、カビ等が含まれている可能性が高いためです。

 輸出入植物の検疫は厳しい検査という印象を持ちますが、重要病虫害を日本国に持ち込まない事、また持ち出さないようにするための必要最低限の検査であり、これに合格したからといって、その植物がまったくウイルス等の病原体に感染していない健全なものであるとは限りません。

 但し、重要な作物、病原菌の持込リスクの高い品目に関しては、国内への病気の持ち込みを防ぐため、輸入を禁止しているもの、隔離栽培での検査を必要とするものなど厳しい検査を必要とするものがあります。

 花き種苗を扱う会社が海外の会社と種苗取引を行う際、まず、植物検疫に合格することは必須ですが、検査対象外の病害であっても、感染していればお客様や取引先にご迷惑をおかけすることがあります。
 病害担当者としては、日ごろから取り扱う品目がどのようなウイルス、細菌、カビに感染する可能性があるのか調べておき、その対策は大丈夫か?そういったことを考えています。

(2014年2月28日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • ノロウイルスによる集団食中毒から学ぶ 苗生産技術
  • 2014.1.31

 

 

 1月中旬に浜松でノロウイルスによる集団食中毒というニュースが流れました。このウイルスの正式名はNorwalk virus(Norovirus属)で、感染力が強く、乾燥した状態では、4℃で8週間程度、20℃でも3〜4週間生存するとされています。消毒用エタノールではこのウイルスに対して消毒効果はなく、次亜塩素酸ナトリウム(0.1%以上)での処理が必要になります。

 実はウイルスの集団感染問題は苗を生産・販売する種苗会社にも同様にあります。
 種苗会社も一箇所の現場から日本全国、世界中に苗を販売している会社が多く、もし、販売する苗にウイルス・ウイロイドが感染していたら、病気が全国に広がってしまいます。

 弊社は遺伝子検査技術を用い、たとえ無病徴であってもウイルス・ウイロイドに感染している植物を見つけだす技術を利用し、カーネーション・キク・ガーベラのウイルス・ウイロイドフリー苗生産を心がけています。

 

写真:スペイン バルブレブラン社

写真:スペイン バルブレブラン社

 

 

苗生産現場では以下の事が厳重に守られています。

1.

ウイルス・ウイロイドフリーの親株を用いる。

2.

感染が疑わしい親株は絶対に苗生産現場に入れない。

3.

手洗い、器具や用土等の消毒を徹底する。

 

 

 生産現場の管理者の方には、病気に対する知識(症状、感染方法、感染する植物の種類、消毒方法)を持ってもらうことも重要です。

 ちなみにキク矮化病を引き起すキク矮化ウイロイドもエタノールでは消毒効果がまったくありません。詳細を知りたい方はバックナンバーの「キク矮化ウイロイド問題と対策」(2011年8月12日)をご覧ください。

(2014年1月31日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • 植物のウイルス病を考える基礎知識 Part3
  • 2013.4.12

 

 Part2ではウイルス感染の有無を調べる方法として、植物ウイルスに過敏に反応する植物を使った生物検定法、血清学的診断法のELISA法を説明しましたが、近年ではPCR反応を使った遺伝子診断法も強力な検査ツールとして利用されるようになってきました。弊社でもこの技術を利用しています。血清学的診断法が使えないキク矮化ウイロイドに対する検査では必須の技術です。

 

PCRを利用した遺伝子診断法

 近年、Polymerase Chain ReactionつまりPCRによる遺伝子診断がよく使われるようになっております。高速遠心機、サーマルサイクラー、電気泳動装置等の実験機器が必要ですが、いまやPCRは高校の生物の授業で習うそうですので、特別な技術ではありません。
 PCRを利用した遺伝子診断を実施するには、まず検査したいウイルスの塩基配列が解かっていなければなりません。そして、ウイルスの塩基配列データを元に、対応するPCR用のプライマーを設計し、そのプライマーを用いてPCRを行い、狙った部分のDNA増幅が認められれば、ウイルスの存在を確認できるという技術です。
 ウイルスの塩基配列が分かっていれば、いろんなウイルスに対応できます。DDBJ、NCBIなどDNAデータバンクに非常に多くの塩基配列データが登録され、このデータベースが活用できます。プライマーの合成は専門の業者に発注でき、2日間くらいで手に入ります。

 

図1 Polymerase Chain Reaction(PCR)の原理

図1 Polymerase Chain Reaction(PCR)の原理


 

PCR反応後の電気泳動写真

図2 PCR反応後の電気泳動写真
 検査サンプル No.7,8,10,11にPCRで狙った部分のDNA増幅が見られ、検査対象ウイルスの感染を確認
 1-11:検査サンプル PC:検査対象ウイルスが感染したもの(PCR反応の成否確認および狙った増幅DNAサイズの比較用)M:分子量マーカー(増幅DNAの大きさを調べるための「ものさし」)

 

しかし、ウイルス全般、特に1本鎖RNAウイルスについては高頻度で変異を起こし、塩基配列が変化する部分があると言われています。そのため変異を起こしやすい塩基配列を元にPCR用のプライマーを設計してしまうと、ウイルスが存在していてもPCRでターゲットのDNA領域が増幅されず検査もれを引き起こす原因になるので、植物ウイルスの分子生物学的な知識および情報も必要になります。ちなみにRNAウイルスは一度DNAに置き換える逆転写反応というステップが必要になります。

 

 

PCRを利用した遺伝子診断の落とし穴

 遺伝子診断技術はウイルスフリー、病原菌フリー苗を検査する強力なツールです。しかし、病害診断、つまり病害の原因を突き止めるために遺伝子診断を使用する場合、病徴を引き起こさないような低濃度の病原でも検出できるため、遺伝子診断で検出されたからと言って、それが病害の直接的な原因と安易に決め付けることができません。病害診断を行うには病害を引き起こす可能性のあるすべての要因を確認して、総合的な判断が必要です。
正確な病害診断を行うためには最初から決め付けない事が重要です。根部や地際部の観察、発生分布、発病した環境など、総合的な診断が重要で、それでも見当たらないなら、ウイルス病などを疑い、遺伝子診断するという流れが必要です。

 最後に、非常に高感度な遺伝子診断技術を以てしても、ウイルスフリー、病原菌フリー苗かどうか判断するには、感染直後から一定の期間は病原を検出できない潜伏期間があることを念頭に入れておく必要があります。

(2013年4月12日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • 植物のウイルス病を考える基礎知識 Part2
  • 2013.3.8

 

今回はウイルス検査についてお話します。

 

まずは生物検定

 多くの植物ウイルスは汁液伝染しますので、検定植物(例:Chenopodium amaranticolorNicotiana glutinosa又は健全な同属植物の苗等)を選んで病気のサンプルの磨砕液を汁液接種または接木することにより、その病気がウイルスによるものであるかどうか診断できます。但し以下の点を知っておく必要があります。

1. 各種ウイルスに対する検定植物の種類
(例 検定植物:ペチュニア 検定可能ウイルスはTSWV で症状は局部病斑点)
2. 病徴の知識(例:モザイク 斑紋 退緑斑紋 萎縮 黄化 葉巻など)
3. 検定植物のウイルスに感染しやすい環境
4. 検定植物の感染しやすい生育段階
5. 生育途中で外部からのウイルスに感染させないような管理
6. 検定植物に薬剤散布はしない事

 

写真 検定植物 Chenopodium amaranticolor

写真 検定植物 Chenopodium amaranticolor

 利点は1検定植物で広範囲のウイルス種の感染有無を調べられることです。南米原産のChenopodium quinoaなら植物ウイルス300種以上に感染し、主に局部病斑を示します。
 欠点は汁液伝染しないウイルスには効果がないことです。たとえば重要病害ウイルスであるトマト黄化葉巻ウイルスは汁液接種では検査できません。さらに植物の反応を利用して検査するので、検査人、栽培環境、季節によって差が出ます。私も昔条件がわかるまでどれだけ苦労したことか・・・
 しかし、問題は多いですが、広範囲のウイルス感染を調べることができるという利点は無視できません。

 

 

血清学的診断法

 抗原抗体反応を利用した検査は再現性が高く、短期間で結果が得られ、しかも高感度、マニュアルどおりに実施すればほとんど失敗がない検査方法です。現在のウイルス検査の主流になっています。代表的なものはELISA法 (Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay) 酵素結合抗体を用いて抗原(標的ウイルス)を検出する方法です。この方法は1976年に研究発表され、アメリカのAgdia社が1981年いち早く検査キットを商業化しました。現在、Agdia社からは116種の植物ウイルスに対してそれぞれ検査用試薬を販売しています。

 

DAS-ELISA法の原理

 

 しかし、ELISA法は特異性が高く高感度な代わりに、原則1検査試薬で1ウイルス種しか検査できません。そして、近年日本で問題になっているキク茎えそウイルス(CSNV)の検査用試薬(1次抗体および酵素結合2次抗体)はここでは販売されておりません。強病害性のウイルスでも、ローカルなエリアでの発生や、海外から浸入してくる新興ウイルスへの対応が遅れることが欠点です。
 また、ナス科のペチュニアを例にあげると、ペチュニアに病害を引きこすウイルスは5種ですが、無病徴感染するウイルスが150種以上で、その中に他の品目に病害を引き起すウイルスが含まれています。他の品目に病害を広げないためにも、栄養系品目の親株や原株のウイルス検査には抗体検査だけでなく、広範囲なウイルスを検査できる生物検定等の検定技術も併用するべきなのです。

 

高感度なウイルス検査方法のもう1つのわな

 高感度な検査方法で陥りがちなミスと言えば、反応がなければ(これを業界用語では陰性という)その個体はウイルスに感染していないと安易に決め付けることです。どんな検査にも検出限界というものがあることを理解しておく必要があります。またわざとウイルスが増えやすい環境で一定期間栽培しておいて、それでも陰性であれば、検査結果の信頼性は高くなります。

 

ウイルスフリー株と判断するには

 病徴が特定のウイルス感染によるものか調べるには、血清学的診断法は十分すぎる感度と特異性があり、非常に便利です。しかし、その植物が本当にウイルスフリーかどうかを検査するには植物病理学的な知識を身に付け、生物検定のような広範囲のウイルス感染の有無を検査する技術も考える必要があります。これは絶対忘れてはいけません。

 

最後にちょっと宣伝!

 実はわたくし、2013年3月27日から29日に岐阜大学で開催される平成25年度日本植物病理学会大会において演題名「キク品種間におけるキク矮化ウイロイドの感染性差異」で口頭発表いたします。この発表の中で、キク矮化ウイロイドが感染してから遺伝子診断法で検出できるようになるまでどのくらいの期間が必要か参考にしていただけるお話をします。興味ある方は是非聞きに来てください。

→ニュースリリース 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構花き研究所との共同研究成果を発表します

 (2013年3月8日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • 植物のウイルス病を考える基礎知識
  • 2013.2.8

 

 ある統計ですが、世界の食用作物生産について考えた時、病害による損失は12%、雑草害、虫害も併せると30%以上の損失があると試算されています。具体的な例では、栄養系品目のサツマイモではウイルスフリー苗を使用するようになって20―30%収量が上がったと言われています。ゆえに、栄養繁殖する品目を扱う種苗会社や生産者は特にウイルス病について十分理解しておくことが重要です。

 

 

ウイルスとは

 ウイルスとは他の生物の細胞を利用し、自分を複製させることができる微小な構造体です。その構造はタンパク質の殻とその内部に入っている核酸から出来ています。核酸の種類の違いからRNAウイルス、DNAウイルスと大きく分けられています。
 ウイルスは多種多様に分化していて、植物、人間も含めた動物、昆虫、カビや細菌にまで感染するウイルスが存在します。この事から細菌類と同様にウイルスの起源も古いと考えられています。

 

うどん写真

ds: double strand 二本鎖   ss: single strand 1本鎖
(+): 遺伝子情報がコードされている側の鎖  (-):鋳型鎖
(RT): 感染個体中で、ウイルスRNAからDNAを合成する逆転写能力を持つ
分類についての最新情報は国際ウイルス分類委員会(ICVT)のWEBサイトで確認できます。


 

植物ウイルスの分類

 現在、ウイルスの分類は国際ウイルス分類委員会(International Committee on Taxonomy of Viruses, ICTV)で決められています。2011年の時点で、2500種近いウイルスが分類されています。そのうち約1000種が植物に感染するウイルスで、2012年現在、日本で発生が確認されている植物ウイルスは340種余りとなっています。
 植物ウイルスの種名は宿主名と病徴名で形成されていることが多く、タバコモザイクウイルスは種名からタバコにモザイク症状を引き起すウイルスであることがわかります。単純ですね!しかし、タバコモザイクウイルスが感染するのはタバコだけではないので、同じウイルスなのに、違う名前をつけられた例もたびたびあり、そこで国際ウイルス分類委員会という組織が存在し、整理役を果たしているのです。

 

 

ウイルスの宿主範囲と植物のウイルス感受性

 ウイルスによっては宿主範囲が極めて広く、例に上げると、キュウリモザイクウイルス(CMV)は双子葉・単子葉植物50科200種以上に感染することが知られています。また、1種の植物に10種以上のウイルスが感染することがあることもあり、特にナス科植物は多くのウイルス種に感染する傾向があります。
 ちなみに日本ではナス科のペチュニアに病気を引き起すウイルスは5種しか報告がありませんが、感染するウイルスは150種以上と多く、その中にはペチュニアでは無病徴感染であるが、ペチュニア以外の作物で病害を引き起すウイルスも含まれます。
 種苗会社や生産者は取り扱っている植物がどのようなウイルスに感染するのか、無病徴感染するウイルスも含め知っておくべきでしょう。
 次回はウイルス検定についてお話したいと思います。

(2013年2月8日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • 種苗生産の国際化と植物病理および検査機能の重要性について
  • 2013.1.11

 

 1990年代後半から切花の輸入増加が目立ち始め、現在、ある花き市場での年間切花取り扱い数の約2割が海外からの輸入切花となっております。また、国内切花生産にあっても、生産コストの安い海外で生産された種苗(種子、苗、穂)を使うことが増えてきています。これは全体的な流れとなっています。

 

 このように切花や苗が世界中を移動するようになると、海外の主要病害が、日本国内に侵入してくる危険性が高まってきます。また、世界戦略を行う国内企業が世界中に病気を広げてしまうことも考えなくてはなりません。

 

 カーネーションやキクを扱うヨーロッパの世界的な栄養系花き種苗会社は1990年代にエライザ法やドットブロットハイブリダイゼーション、近年ではPCR法という高感度なウイルス検定技術を導入し、ウイルスフリーの親株を元に苗生産する体系を確立しており、病害の浸入および拡散を阻止する体制作りに力を入れてきました。

 

 以上の事から近年ますます国際的に活動するようになった日本の栄養系花き種苗会社も病害に対する十分な知識と検査体制が重要であることが理解できるかと思います。

 

花き類の苗によって日本に持ち込まれ、それが国内花きおよび野菜の病害として拡大し、大きな損失を与えている例は  
1.1970年に輸入ダリア苗によって持ち込まれたトマト黄化えそウイルス(TSWV)
2.1996年にクルクマ苗(ショウガ科)によって持ち込まれた、ショウガ青枯病
3.2006年にキクで初発が確認され、全国に蔓延したキク茎えそウイルス

 

 種子系の品目でも、昨年は種子伝染性のスイカ果実汚斑細菌病(ウリ科野菜果実汚斑細菌病)で汚染されたスイカ種子が出回り、種子回収、苗処分という出来事がありました。これも海外で生産された種子でした。

 

 種苗生産の国際化により、取り扱い品目がどんな病気・ウイルス等に感染する可能性があるのか、その病害が世界のどこで発生しているのか、その伝染様式を把握して防除対策を行い、検査技術を導入することの重要性が高くなってきています。

 

 弊社は病理機能を強化し、ウイルス・ウイロイド検査技術、病害診断機能に力を入れ、海外からの病害浸入対策にも対応しております。

(2013年1月11日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • 植物に病気を引き起こすカビとは
  • 2012.7.13

 

 梅雨時期は1年中で最もカビが繁茂しやすい時期です。切り花栽培でもこの時期はカビによる病害対策を考えなくてはなりません。
 しかしカビであればすべて植物を侵すわけではないという事はご存じだと思います。その理由は植物も侵入してきたカビを認識し攻撃する免疫システムを持っているからです。
 ゆえに植物病原菌は、植物の免疫システムを克服したカビであると言えます。

 

植物の免疫システム

植物が持つ免疫システムには
1.

カビが共通してもっている細胞壁成分(キチン、β-1,3-グルカン等)を認識し、カビの細胞壁を分解する酵素を作り出しカビを攻撃する。

2.

カビの侵入を許してしまった細胞は自ら死ぬことにより、感染拡大を防ぐ。

3.

カビが侵入してきたことを植物全体に伝え、防御関連遺伝子を活性化し、抵抗性を高める。

などがあります。

 

 植物に病気を引き起こすカビは進化の過程で、このような植物の免疫システムを働かさないようにして植物細胞内に侵入する能力を持ったカビなのです。

 私が2012年4月に東京ビックサイトで開かれたバイオテクノロジー展に出かけた際、農業生物資源研究所の研究グループの発表が目にとまりました。
 その発表とはイネいもち病菌がイネに感染する際、植物が認識できないα-1,3-グルカンで菌糸を覆いステルス化を図って、植物細胞内に侵入することを証明したものでした。この研究グループは成果を実用化につなげるため、α-1,3-グルカン分解ができる植物の作出及びα-1,3-グルカンの合成を阻害する薬剤の開発に向けた研究を継続しているとの事です。

 

 植物病原菌が植物に侵入するしくみがどんどん解明されてきています。その成果により効果的な防除薬剤や新たな病害抵抗性植物の開発・実用化ができるようになる事を期待したいと思います。

(2012年7月13日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • ヨーロッパの歴史を変えたジャガイモ飢饉と植物病理学
  • 2012.5.11

 

 あなたは植物病理学という学問をご存じですか?植物の病気を研究する学問です。そんな学問があることを知らない人の方が多いかも知れません。しかし、気がついていない人でもこの学問によって多くの恩恵を受けているはずです。


ヨーロッパの歴史を変えたジャガイモ飢饉

 人類はこれまで植物の病気によって大きな影響を受けてきました。たとえば1845年頃にアイルランドを中心にジャガイモ飢饉と呼ばれるジャガイモ疫病(病原菌 Phytophthora infestans)が大発生し、アイルランドでは少なくとも20%の人が餓死および病死、また約20%が国外へ脱出するような大被害を受けたのです。アイルランドの人々にとってジャガイモは重要なエネルギー源だったのです。


なぜ、突然このような問題が発生したのか?その理由は

1.ジャガイモは前年の塊茎を植えるという栄養繁殖により増やされる事。
2.収量の多い品種を集中して栽培しており、遺伝的多様性がほとんどなかった事。
3.世界中を人や作物などが移動するようになって、それまでアイルランドには存在しなかったある地域の病原菌が持ちこまれた事。
4.持ち込まれた病原菌がこの収量の多い品種に感染し、強い病原性を示す遺伝子を持っていた事。
5.ジャガイモ疫病が発生しやすい低温で多湿な環境であった事。

 当時は、かび、細菌、ウイルスなどの微生物が植物や人間に病気を引き起こすという考え方が知られていなかった時代であり、当時のヨーロッパでは、ジャガイモ疫病の存在自体が知られていなかった事が被害を大きくしたのです。栄養繁殖で苗を供給する我々にとっても他人事ではありません。


 現在では、ヨーロッパや日本においてもジャガイモ疫病対策が取られており、大発生することは少なくなりました。


現在までに取られた対策は

1.新品種の種イモ導入には隔離栽培試験による植物検疫を行い、海外からの新たなタイプの病原菌やウイルス等の持ち込みを防止する。
2.効果的な殺菌剤の開発と適正使用。
3.抵抗性品種の利用。
4.栽培環境の改善(土壌物理性改善、有用微生物利用)。

 日本でも江戸時代にはたびたび飢饉があったことが歴史に残っています。その原因の1つが雨が多く冷涼な天候が長引く、高温多湿、日照不足などの条件によるイネいもち病発生ですが、ジャガイモ同様に防除対策が進んだこともあり、現在では極端な不作はほとんど起こっておりません。



植物の病気に立ち向かう植物病理学

 このような植物の病気に立ち向かっているのが植物病理学です。1845年のジャガイモ飢饉以降に確立され発展した、基礎から応用までの幅広い分野を含む総合的な学問です。
この学問において現場レベルで一番重要なのは 1. 診断と防除対策です。しかし、植物の病原となる微生物は、カビ・細菌・ウイルス・ウイロイド・ファイトプラズマ・線虫等、多様であるため、的確な診断を下すにはこれらの病原微生物の事を熟知する必要があります。
次に、2.感染生理および発生生態。どのように感染するのかわかれば、感染しにくい環境を作ることもできます。また病気に弱い植物に病原菌を接種して100%感染させる技術があれば、病気に強い植物を見けることができるようになり、耐病性品種の育成にも貢献できるのです。


 植物病理学の最新の情報を得るには日本植物病理学会に参加することです。穀類や野菜を対象とした病気の研究発表が多いのですが、近年は花き類の病気に関する研究も増えてきました。その原因の1つに、近年切り花輸入、また海外生産種苗の輸入が増加したため、新たな病原微生物が持ち込まれていることが原因ではないかと考えています。特に花き類種苗の輸出入を取り扱う会社は今以上に植物の病気について熟知し、ジャガイモ飢饉のような問題を花き類で引き起こさないように努力していく必要があると考えています。


 我々は自ら扱う苗について病害検査を行い、海外から新しい病気を持ち込まないように、また日本国外へ持ち出さないように心がけています。

(2012年5月11日)
[ TEXT:森本 正幸 ]

  • 花にも病害抵抗性品種の時代が来るのか?
  • 2012.4.6

 

 植物に発生する病気の3要素は主因(病原菌)素因(宿主)誘因(環境)です。つまり、「1.病原菌がいて、2.そこに病気になる植物がある。3.さらに病原菌が植物に感染できる環境条件があって、植物は病気になる。」ということです。1つでも欠けると病気にはなりません。
花き類栽培においては主因対策(薬剤防除、無病苗の使用、被害残さ除去、)と誘因対策(土作り、栽培環境改善)が主な病害防除対策となっています。


素因対策(病気にかからない植物、つまり病害抵抗性品種)ができれば何と楽なことかと皆さん期待していると思いますが、病害抵抗性品種を作出するためには3つのハードルがあるのです。


1.罹病性評価系
病害抵抗性品種育成を行うには病気に強いか弱いかを正確に判断できる技術が必要です。罹病性とは植物が病原菌に対する抵抗性を持たず、容易に侵される性質です。罹病性評価系を作るには発病条件を熟知しておく必要があります。評価系を作出する事ができれば抵抗性遺伝資源を探査することが可能になります。


2.抵抗性遺伝資源の探査
病害抵抗性を有する遺伝資源を見つけ出すことができれば、抵抗性品種育成への道のりが見えてきます。穀類や野菜類においては野生種や薬剤防除が主流でなかった頃の古い品種群から病気に強いという形質を保有している植物が見つかった例がありますので、花き類でもそれが参考になるでしょう。しかし、花き類では古い品種があまり保存されていないため、病害抵抗性遺伝資源を発見することは非常に難しい課題でもあるのです。


3.抵抗性の導入と選抜法
花は嗜好品であるため穀類や野菜に比べ品種の変遷が激しく、また少量多品種であるため、改良に手間のかかる病害抵抗性という形質に着目した品種改良にほとんど着手されてきませんでした。
どんな手間がかかるのか説明しますと、抵抗性に関わる遺伝子の導入は同種内であれば雌しべに花粉をつけて種を取る交配で容易に実行できます。しかし得られた実生個体から抵抗性個体を選抜するためには毎回病原菌を接種し、病気に強い遺伝子を保持しているか確認する作業が加わりまず。これはかなり大変な作業なのです。また1つの病気に対しても複数の遺伝子が抵抗性に関与している事も多く、抵抗性遺伝子を保持させながらその他の形質を改良していくことは容易ではありません。


しかし、近年の目覚しい分子生物学や遺伝子解析装置の進歩のおかげで病害抵抗性のしくみの解明や選抜の効率化が進んできています。そのおかげで品種変遷の激しい花き類においても病害抵抗性が付与された品種が盛んに育成されるという時代が近いかも知れません。

(2012年4月6日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • ミカンキイロアザミウマと戦う基礎知識
  • 2012.1.6

 

 今回は食害による商品価値の低下やトスポウイルス属を媒介するアザミウマとして問題になっているミカンキイロアザミウマについてお話したいと思います。


1)ミカンキイロアザミウマはどこから来たか

 「アザミウマ」と呼ばれている害虫が最初に問題になったのは1980年代でした。この時は東南アジアから「ミナミキイロアザミウマ」が日本に進入し、施設栽培に大被害を与えました。
 しかし、現在問題になっているアザミウマは「ミカンキイロアザミウマ」という種で、国内ではじめて確認されたのは1990年でしたが、この種は新しい農薬への抵抗性が発達しており、防除が難しく、1990年代半ばには日本全国に広がってしまいました。
 実は「ミカンキイロアザミウマ」は100年以上も前からアメリカで確認されていたアザミウマで、当初は難防除害虫ではなかったようです。しかし農薬散布の嵐の中、最強のアザミウマに鍛え上げられ、それが1980年代にヨーロッパに広がり、その後日本に侵入してきたのです。そのため、「ミカンキイロアザミウマ」は殺虫剤への抵抗性が特に発達しており、防除を難しくしています。

 

2)ミカンキイロアザミウマの特性

 ミカンキイロアザミウマはミナミキイロアザミウマより寒さに強く、花が好き、おまけに好き嫌いが少なく、芽・新葉・果実などいろんな部位に寄生し加害してしまう厄介ものです。増殖に関しては雌1匹が気温25—30℃の環境で葉だけ食べると1カ月で7倍程度の増殖ですが、花粉を食べると約70-370倍に増殖率が高まることが調べられています。
 さらにトマト黄化えそウイルス(TSWV)、インパチエンスネクロティックスポットウイルス(INSV)、キク茎えそウイルス(CSNV)など大被害をもたらすウイルスも媒介します。

 

3)ミカンキイロアザミウマの生態

 卵から成虫まで15度では約35日間、20度では19日間、25度では12日間、30℃では9日間と短期間で発育すると言われています。また、アザミウマの卵は植物組織の中、蛹は土中に生息している事が防除を難しくしている原因です。

ミカンキイロアザミウマの生活環(花がある場合)

図 ミカンキイロアザミウマの生活環(花がある場合)

 

4)対策

 ミカンキイロアザミウマの防除が難しい理由は主に次の3つです。

1.増殖率が高い。
2.微細な昆虫で見つけにくい。
3.薬剤に対しての抵抗性の発達。

したがって、対策のポイントは

・初期発生を見逃さない

 最初に進入してくる出入り口付近、側窓付近、天窓下や、他より開花の早い花を注意深く観察する。粘着トラップを発生しやすい場所に仕掛け観察する。

・薬剤散布後は必ず効果確認

 もし効果がなければ、薬剤の種類を変えて再散布し対応する。
 特に合成ピレスロイド系薬剤の散布後は天敵・ライバル昆虫もすべて死滅させるので、ミカンキイロアザミウマに効果がなければ、かえって増やしてしまうことがある。

・追いまき散布の実施

 農薬散布時に卵や蛹であったものは農薬がかからないため、4、5日後に追いまき散布を実施する。

・ローテーションの実施と散布間隔の調整

 開花期に多発しそうな場合5-7日間隔で散布する。それ以外は10-14日間隔が望ましい。また抵抗性の発達させないため同一薬剤を絶対連用しない。

・不要な花、周辺雑草の除去

 東海以南では、ミカンキイロアザミウマの露地雑草での越冬が確認されています。

・1mm目以下の防虫ネットならびに反射マルチで飛来防止

・栽培終了後の蒸込みあるいは土壌消毒

 土壌中に残った蛹を死滅させます。蒸込みの場合、夏は7-10日、春秋は約2週間必要。

 

相手の生態を頭に入れて、総合的な戦略で防除すれば、これまで以上に効果的な防除ができるはずです。

(2012年1月6日)

 

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • 栄養系品目の種苗を供給する者にとってウイルス検定が重要なわけ
  • 2011.12.9

 

 今回は栄養系品目の種苗を供給する者にとってウイルス検定、ウイルスフリー母本管理が重要なわけを説明したいと思います。


1)ウイルスとは

 ウイルス病の病原であるウイルス粒子はタンパク質の殻の内部に核酸(RNAまたはDNA)を持ち、大きさは30-200nmと非常に小さく、電子顕微鏡を利用しないと観察できません。またウイルスは自分自身では増えることができないため、動物や植物などの細胞に寄生し増殖します。そのため寄生した植物がすぐに死んでしまうことはウイルスにとっても不都合なことであり、ほとんどのウイルスは進化の過程で植物を生かさず殺さず上手に寄生して生き残ってきました。この関係を絶対寄生性といいます。


100万倍の世界

100万倍の世界


 実は同じウイルス種でも感染する植物によって病徴は異なることが多く、感染してもまったく病徴を示さない植物種もあれば、劇症になる植物種もあります。また品種間でも病徴に違いが確認されています。


 防除の面では、ウイルスは細胞内で増殖するため、ウイルスだけを殺すことは非常に難しく、感染させないこと、感染した植物を増やさない事、適切に廃棄することが最大の防御となります。

 

写真 ペチュニア4品種の主要ウイルスに対する反応(接種2週後)

写真 ペチュニア4品種の主要ウイルスに対する反応(接種2週後)
TMV:タバコモザイクウイルス CbMV:カリブラコアモザイクウイルス PVY:Potato Virus Y

 

2)病徴を示さないウイルスが感染していても問題ないか?

 感染していても病徴を示さないケースを無病徴感染といいますが、実はこれが一番厄介なのです。その植物はウイルスが感染していても外見上まったく見分けがつきません。しかしそのウイルスが違う植物種や品種に感染すると劇症を引き起こすことがあるからです。


 たとえば、ナス科のペチュニアでは100種以上のウイルスが感染することが分かっています。そのうちペチュニア自身に病気を引き起こすウイルスとして日本で報告されているのは5種のみです。ペチュニアで病徴を示さないウイルス種もたくさんあり、感染していても外見からはまったく健全に見えますので、気がつかずに栽培してしまい、他の植物にウイルスを広げてしまう可能性が高いのです。ペチュニアでは病気として報告されていないウイルス種の中にはトマト、タバコ、ジャガイモなどに病気を引き起こすものが含まれているのです。

 

3)感染しても病徴を示さないウイルス感染をどうやって調べるのか?

 具体的には以下のような方法があります。

生物検定法: 調べたい植物の磨砕液をウイルスに敏感な植物に接種して症状を確認する。
検定用のアカザでは200種以上のウイルスに感染し、病斑を示すので、広範囲のウイルス種を検出できる。
抗原抗体法: 特別な機材は不要で高感度である。但し抗体が作成されていないと調べることができないため、特定のウイルス種のみしか検出できない。抗原抗体反応を利用した代表的な検定法はエライザ法およびRIPA法(迅速免疫ろ紙検定法)。
遺伝子診断: ウイルスの特異的遺伝子配列を検出する方法。塩基配列がわかっていればほとんどのウイルスを高感度に検出できる。但し、変異しやすい配列を誤って検出用に用いると、感染していても検出できない場合がある。
電子顕微鏡観察: 最も直接的で確実な方法だが、非常に高価な機材が必要。無病徴感染しているかどうかの検査には不向き。
       

 

4)効率の良いウイルス検査方法は何?

 エライザ法と生物検定の組み合わせが一般的です。なぜ生物検定も必要なのか?それはエライザ法で調べることができない広範囲のウイルス種を検出ことができるためです。

 品目によって感染するウイルス種は異なります。種苗を供給する者は、扱う品目ごとに無病徴感染するウイルス種も含め、感染するウイルス種すべてを知っておくことが重要です。


 

5)栄養系品目を取り扱う際の危険性について

 挿し芽、組織培養、球根、塊茎で種苗を増やすことを栄養繁殖といいます。栄養系品目では、もし元株がウイルスに感染していれば、ウイルス感染植物を栄養繁殖で増やしてしまうことになります。その苗を日本全国、または全世界に供給してしまうと、生産者に大きな損失を与えてしまいます。

 もちろん故意にそのようなことをする人はいないと思いますが、問題は無病徴感染植物です。感染していることに気づかずウイルスを広げてしまい、そのウイルスが激しい病徴を示す植物と出会って問題が発覚するのです。


 

6)最後に

 全国に苗を供給する弊社はできる限りこのような問題を起こさないよう対策に努めています。しかし、それだけでは不十分です。生産者の方も次のような注意が必要です。


ハウス周辺に感染の疑いのある植物や雑草を放置しないこと
趣味家用の苗等はウイルス対策が取られておらず、無病徴感染している可能性が高いため、これらを同居させない事
手洗い、器具の消毒などの注意を払うこと

(2011年12月9日)

 

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • 植物の病害診断と対策について
  • 2011.7.15

 

 植物の病気とは絶え間ない刺激により、植物の生理機能が乱されている状態を言います。

 広義には植物の生理障害全般を指し、そのなかに病原の感染による伝染性の病気、環境の不適合等による非生物性、つまり非伝染性の生理障害があります。植物病理学において伝染性の病気のみを狭義に「植物の病気」と扱っていますが、営利栽培上は非伝染性の生理障害であろうと、原因を特定し対応しなければなりません。


 そこで病気の現場では、まず伝染性か否かを見極めることが第一歩になります。

 

表:植物の病気のおもな病原

植物の病気のおもな病原

 

 

 伝染性の病原にはウイロイド、ウイルス、原核生物(ファイトプラズマ、細菌)、菌類、線虫等が知られています。つまりいろんな微生物が植物の伝染性病原になりえます。また土壌病原菌による根の障害でもウイルス病のような葉の黄化や矮化症状を引き起こすことがありますので、ウイルス病のように見えても植物全体、地下部まで観察が必要です。


実は伝染性病害の8割が菌類いわゆるカビによって引き起こされていると言われています。但し、ウイロイドやウイルス等を除く多くの微生物は植物に病気を起こさない腐生性の微生物つまり分解者です。腐敗した組織から菌類や細菌または線虫が確認されただけで、それらが植物の病原であったとは言いきれないことは頭にいれておく必要があります。

 そのため、植物病理学における病害診断では病気にかかった植物から病原と思われる微生物をいくつか分離し、健全な植物に接種を行い、本当に病気を再現できるか確認するという作業(コッホの4原則)を大切にしています。


但し、病害の現場ではコッホの4原則を用いた精度高い診断よりも迅速な対応を求められることが多々あります。それには初期症状や症状の広がり方、周辺植物の状況や栽培環境などの情報が重要で、これらの情報を吟味しつつ、罹病部より観察された微生物のどれが主因(病原)か推測することで、診断精度を高めます。


病原微生物が何かわかれば、それに効果がある農薬などで消毒する──と安易に考えがちですが、病害対策をする上で一番重要な事は、その病原微生物がなぜ増えてしまったのか?という原因を考えることです。それには植物に携わる人自らが植物病理学の基礎を学び、その原因を考える力を身に付けることが、一番だと思います。

 

 

 植物病理学の基礎的な力を身に付けるには大阪府立大学の大木 理教授が書かれた「植物病理学(東京化学同人)」がわかりやすくお勧めです。

(2011年7月15日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • これからの病虫害防除戦略
  • 2011.5.13

 

 戦後から高度経済成長期の日本は、農業の生産効率を高めるため、農薬・化成肥料に大きく依存した農産物生産を行ってきました。しかし、農薬や化学肥料による自然環境へのダメージ、人や家畜への影響が明らかになり、近年、食用作物を中心に減農薬栽培や有機栽培が見直されてきています。

 但し、単純に減農薬栽培を行えば、病虫害が増えて減収になるのは目に見えています。そこで病虫害を防ぐ方法は農薬だけではない、ということをお話ししたいと思います。

 

最初に質問です。


植物が病気になる時の条件を説明できますか?

 答えは1.病原菌がいて、2.そこに病気になる植物がある。3.さらに病原菌が植物に感染できる環境条件があって、植物は病気になる、これを植物病理学では「発病の3要因」といいます。そう言われると当たり前と思いますが、案外そういう目では病気を見ていない人が多いのが現状です。病害防除を考える上で最も基本となる考え方です。特に栽培に携わっている方は知っておいた方がよいでしょう。


病気に対して殺菌剤等の農薬散布以外の対応方法は?

 薬剤のみに頼った防除法では耐性菌が出現すると病気を完全に防除できなくなってしまいます。実際、産地に出かけると、これまで特効薬だった農薬の防除効果がなくなり、病気による被害が増えて困っているという話をよく聞きます。

 「発病の3要因」を頭に入れて考えますと、栽培環境の改善も病害対策になるということが理解できると思います。病気が多発する原因は栽培現場の環境にも問題があるはずなのです。

 

総合的病虫害管理

 

 栽培環境の変化が病害を引き起こした例の1つに、近年バラ栽培で問題になっているバラべと病(Peronospora sparsa)やバラうどんこ病(Sphaerotheca pannosa)があります。それらの病害は夜間の加温にヒートポンプを利用するようになってから増えてきています。ヒートポンプ導入によって病気が増えた原因のひとつとして、灯油や重油を燃料とする温風ボイラーよりもヒートポンプの風量の方が小さく、温室内に温度ムラが生じ、温度の低い場所で結露が発生するようになったことが挙げられます。つまり結露するような高湿度条件が、べと病菌やうどんこ病菌の感染を助長してしまったのです。対策として循環扇を使い、夜間の温室内温度ムラをなくすことで病害はかなり改善されたようです。このように発病の3要素のうち1つの要素でも欠けると植物は病気になりにくくなるのです。

 

 

病原菌のいないクリーンな環境での栽培は本当に安心といえるか?

 土を使用せず、室内で人工照明を使い、水耕栽培や養液栽培をすれば病気の心配はないと思いますか?

 実は、土で栽培する以上に病原菌を持ち込まないように神経を使わなければなりません。なぜなら病原菌の競争相手となる微生物が少ない環境では、もし病原菌が侵入し、さらに好適な環境条件が重なってしまうと、そこは病原菌にとっての楽園となってしまうからです。そのため植物工場では病原菌の侵入を防ぐため白衣着用、靴の消毒等が必要となるのです。

 つまりクリーンな植物工場を運営するにしても、病原菌に対する知識は重要となります。


病気と闘うには敵を知ることが重要

 もし、困っている病気があり、それを克服するため栽培環境の改善を試みようと思うなら、まずはその病気を引き起こす病原菌について熟知する必要があります。病原菌の生活環や、胞子発芽や感染条件などの感染好適条件、伝染様式(空気、水、土、刃物)、を知ることで栽培環境の問題点が見えてくるはずです。

 「役立つ病虫害の話」のこれまでの記事にも、病原菌の情報を載せているものもありますので、それぞれの病気の記事をもう一度読んでみることをお勧めします。



 最後に、花き類では抵抗性品種はほとんど開発されていませんが、品種によって病気になりやすさに違いがあります。総合的なアプローチで病害対策を行っても改善できないような病気に弱い品種は栽培を避けることも対策の1つです。

(2011年5月13日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • タバコモザイクウイルス (Tobacco mosaic virus : TMV) について
  • 2010.12.26

 

 タバコモザイクウイルス(TMV)は広範囲な植物に感染し、土壌伝染・種子伝染もする厄介な植物ウイルスの1つです。野菜類のトマト、ピーマン等では抵抗性品種が育成されて、被害は少なくなってきましたが、抵抗性品種を打破するTMVが出現することもあり、完全に問題が解決したわけではなく油断は禁物です。


しかし、花き類においてはもっと深刻で、TMVも含めウイルス病抵抗性品種がほとんど開発されておらず、ウイルス検定やウイルスフリー苗生産体制、ウイルスに関する知識などが非常に重要になってきます。


花き類でTMV感染が報告されている品目はペチュニア、ガーベラ、ジニア、ユリ、ジンチョウゲ、ラン類などで、これらの品目を取り扱う方は是非TMVに対する知識と対策について勉強しておいてください。


まず TMVの症状を知っておくことが重要となりますが、TMVが感染すると明瞭なモザイクを生じる以外に、葉や茎にえそを生じることもあります。

 弊社でも試験的にTMVをペチュニアに汁液接種しその病徴を調査していましたが、品種によって症状が違うことを確認しています。

 

写真 TMV汁液接種2週間後のペチュニア

写真 TMV汁液接種2週間後のペチュニア
A:EWピンク(無接種)、B:EWピンク(TMV接種)、C:EWホワイト(TMV接種)
D:EWロージードーン(TMV接種)、E:EWレッド(TMV接種)
F:ウェーブ・カプリシャス(TMV接種)
ほとんど症状がみられない品種(写真B)や激しいモザイク症状を起こす品種(写真E)、えそ症状を起おこす品種(写真F)が確認された。

 

 TMVが属しているトバモウイルス属には、TMVに近縁なトマトモザイクウイルス(ToMV)、キュウリ緑斑モザイクウイルス(CGMMV)、ペッパーマイルドモトルウイルス(PMMoV)があります。それぞれ、トマト、キュウリ、ピーマンにモザイク病を引きおこします。以前はこれら全てのウイルスをすべてTMVと呼んでいましたが、現在は分類の基準が変わり別種として扱われています。これらのウイルスはウイルス粒子の物理的安定性が高い、土壌伝染性、汁液伝染性、接触伝染性、種子伝染性を有するなど、共通した特性を持っています。また非常に多くの植物に感染が報告されており、一度感染が広がると栽培施設をウイルスで汚染してしまいます。TMVが防除の難しいウイルス病と言われる理由です。

 

 

伝染源と対策:

TMVは幅広い植物に感染するため周囲の雑草や花、野菜などが感染源となる可能性があります。罹病植物に触った手やハサミなどを用いた管理作業でも容易にウイルスが広がります。TMVは物理的に安定したウイルスで、農業資材や設備に付着したウイルスや罹病植物の根から放出された土壌中のウイルス粒子からの感染、罹病植物から作られた堆肥からの感染にも注意が必要です。


対策としては

1. ウイルス症状の認められた株は残渣が残らないように早めに抜き取り、焼却する。
2. 周辺の雑草などはこまめに除草する。
3. ハサミなどの刃物を5%第3リン酸ナトリウム溶液やブリーチなどの塩素系漂白剤でこまめに消毒して使用する。
4. 接ぎ木用カミソリなどの刃物は煮沸消毒する。
5. 摘芯、摘芽等の作業中に発病株に触れたときは必ず石鹸で手を洗う。
6. 作業の都度、農具は中性洗剤で洗う。
7. 苗床は90℃以上で30分蒸気消毒する。
8. 健全株から取った種子を使う。
9. 信頼できる用土、堆肥を使用する。
10. ウイルスフリーの親株や種苗を使用する。

 

 

 弊社が供給する種苗はこのようなトバモ属ウィルスを含めウイルス検査を実施し、ウイルスが検出されなかった親株から生産しています。しかしウイルス病を蔓延させないためには、いろんな経路でウイルスが持ち込まれる危険性があることを理解し、対策を講じることが不可欠です。

(2010年12月26日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • 正確な病害診断のために
  • 2010.11.26

 

植物に関わる仕事をすると、どんな品目でも病気の問題に直面します。 花き生産をされている方はもちろん、新品種育成、苗生産、展示試作などの弊社の業務でも、病気で困ることがあります。 病気の被害を最小限に抑えるためには迅速かつ正確な病害診断が重要になってきます。 植物病理学の豊富な知識と診断経験を持つ人でも、診断のために必要な発生状況等の情報や適切なサンプルが手に入らないと、原因の特定ができないことも結構あります。 そこで、病害診断依頼はどのようにすればよいか、お話したいと思います。

 

診断依頼の方法について

1. 電話だけの診断依頼では正確な診断は難しい。
2. メールに写真を添付しての診断依頼の場合、依頼者からの適切な発生状況などの情報があれば診断可能な場合がある。
3. 現物サンプルの送付では、適切な発生状況などの情報と新鮮な全体サンプルであれば、観察、病原菌の分離、接種試験などで既知の伝染病害の多くは判定可能であるが、生理障害の場合はかなり困難である。
4. 依頼を受けて現場に出向くと、様々な進展度合いや症状が確認でき、より確実な診断ができる。生理障害の場合、現場での発生状況把握と聞き取りが重要な判断材料になる。

 

 

望ましいのは4の依頼をして専門家に現場へ出向いてもらう事ですが、植物病害診断の専門家が少なくなってきており、時間的・労力的制約の中でこのような対応ができなくなってきています。


そこで重要なのが、診断依頼先に新鮮な全体サンプルを送付すること、合わせて病気の発生状況などの情報を正確に伝えることになるのです。

 

診断にはどんな情報が必要か

1. どの品種で? (同じ場所に栽培されている他の品種の状況は?)
2. 発生時期とその後の進展状況は?
3. 発生時の植物のステージは?
4. どこに、どのような症状が?(根部、基部、茎、葉の全体を確認)
5. 発生はどこから?(発生分布、発生率)
6. 発生前の環境は?(天候、温度、湿度、光管理、潅水方法、土壌水分、土壌排水性)
7. 前作の品目と品種は?その時は問題なかったか?
8. 周囲の植物、雑草に病気がないか?
9. 土壌消毒、薬剤散布は何をどのように、いつ実施した?
10. どんな肥料および堆肥をいつ、どのように使用した?

 

 

 診断に必要な情報を1-10まで上げましたが、それぞれの項目を発病の3要素と関連付けると図のようになります。迅速な診断は、発病状況から病名の仮説を立て、情報が仮説を立てた病気の3要素と一致しているか検証していくといった手順で行われます。

だから病害サンプルと一緒に上記のような情報があると、かなり正確な診断ができます。お近くの専門機関に相談する際は、情報をまとめた上で診断依頼されるとよいでしょう。


ここまでしてもわかりにくいのが生理障害です。これを解明するには植物病理・土壌肥料・栽培分野の専門家の連携が必要だからです。私も社内のいろいろな部署の担当者に相談しています。


なお、近年、特定の病気を検査する診断技術として植物分野でも抗体検査や遺伝子診断法がめざましい進歩を遂げています。この技術は日本への進入を阻止したい特定病害に対する植物検疫や弊社の生産するウイルスフリー、ウイロイドフリー苗の検査方法として、有効な手段になっています。

しかしこのような検査方法も特定の病気しか検出できず、病害診断として万能とはいえません。幅広い病気の知識を持つ人に相談することが大切になるのです。

(2010年11月26日)


注: 最も精度の高い診断は、罹病組織から病原菌の候補を分離し、健全な植物に接種し、同じ病徴が再現されること確認し、再度分離を試み同じ病原菌が分離されることを確認して、その病原菌の種を特定するというコッホの原則を用いて診断する。しかし、時間がかかり、迅速な対応が取れないという欠点がある。


[ TEXT:森本 正幸 ]

  • 微生物の豊富な土壌は病気から植物を守る
  • 2010.9.24

 

1年目はうまく栽培できたのに、2年目以降うまくいかないという経験はないでしょうか?


同じ圃場で同じ作物を繰り返し栽培すると年々生育が悪くなる、あるいは病気の問題が深刻になってくることを連作障害といいます。


連作障害の原因は
1.土壌中の微量要素のアンバランス
2.残った肥料分が土壌中の金属と結合し塩として蓄積される塩類集積
3.連作によりその作物を好む病原菌や害虫の密度が高まる
などが考えられています。またある作物では他の植物の成長を抑制する「いや地物質」を根から分泌するものがあり、この物質が高濃度に蓄積すると自分自身の生育に悪影響を及ぼす場合もあり、これも連作障害の原因になります。

微量要素のアンバランスや塩類集積は作物の養分吸収特性に合わない施肥を続けたためであり、生理障害や作物の病虫害抵抗性低下の原因になります。この対策は土壌診断の実施と、適切な施肥設計です。

病原菌、害虫増加の原因は病原菌や害虫の競争相手である多様な微生物が減少し、生態系が壊れてしまったことが原因です。多くの切花品目は連作が当たり前になっていますが、そのためには多様な微生物が育つ土壌環境を整える必要があるのです。
「いや地物質」の蓄積も、土壌中に豊富な微生物が住んでいれば速やかに分解が進んでいくのです。
 
土壌微生物とは
一般的には畑の土壌には縦横10mの30坪の面積当たり 60kgの土壌微生物(細菌、放線菌、糸状菌、藻類、原生動物、線虫など)が生息していると考えられています。しかし、土壌消毒と化学肥料に頼った栽培を続け、畑からできた植物を収穫して持ち出すと、土壌中には土壌微生物のえさとなる有機物が乏しくなり、微生物が減少し多様性も失われていきます。その結果、土壌は抵抗力を失い特定の病原菌が増えやすい環境になってしまうのです。土壌微生物を増やすためにはえさとなる有機物を土壌に投入してやる必要があるのです。

 

有機物投入と病害防除効果

有機物とは生物由来の有機化合物を意味します。落ち葉やワラ、家畜の糞尿などが該当しますが、これを土壌に投入すると微生物は急激に増加します。しかしすぐに病気が発生しにくい土壌になるわけではありません。有機物が分解し始める最初の段階では、低分子糖類やアミノ酸を好む植物病原菌も増えるためです。実は植物病原菌も植物や有機物を分解する微生物の一員です。しかし病原菌は生きた植物にも侵入できる能力を身に付けているので病気を引き起こすのです。有機物の分解が進むと、やがて難分解性のセルロースやリグニンを分解するキノコ類や放線菌の割合が増え微生物の種類も多様化し、病原菌にとっては好環境ではなくなります。発酵が完全に進んだ完熟堆肥の使用を勧められると思いますが、このような理由があるのです。

 

図 有機物の追肥化過程における温度変化と成分の分解経過

 

追肥の熟度別特性表

 

有機物投入の注意点は

1. 分解の完全に進んでいない堆肥を投入し、苗を定植するとかえって病害を助長することがある。
2. 完熟堆肥であっても投入直後の定植より、投入後1ヶ月経った土壌に苗を定植した方が土壌病害抑制効果は高い。
3. 病原菌が蔓延してしまった土壌の場合、一度土壌消毒した後に十分量の堆肥を投入し、少なくとも1ヶ月待って土壌微生物を回復させてから苗を定植する方が良い。
4. 土壌中の炭素・窒素のバランスが重要。炭素率つまりC/N比(炭素/窒素比)15-20が目標。9以下なら土壌病害が発生しやすく、20以上なら窒素飢餓が起こりやすくなる。

 

もう10年も前の話ですが、長野県でのスターチス7月定植作型では高温時期の定植のため、萎凋細菌病が深刻な問題になっていました。しかし、私が知っている生産者の中に、土壌消毒なしでも、まったく萎凋細菌病を出さずに切花生産を続ける方がおられました。 その生産者の方は毎年、完熟の牛糞堆肥混合バーク堆肥を10アール当たり6トン(その地域の施肥基準は2-3トン)投入し続けておられました。今を思うと豊かな土壌微生物が病気から植物を守っていたのかもしれません。

(2010年9月24日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • 土壌病害の対策について
  • 2009.10.23

 

7-9月の高温期に発生する生育不良や立ち枯れなどの連作障害は植物病原菌による土壌病害が原因であることが多いようです。特に土壌中に生存する病原性のFusariumRhizoctoniaPythiumPhytophthoraなどの糸状菌(カビ)やRalstonia  Burkholderiaなどの細菌が土壌病害として良く知られている植物病原菌です。土壌病害を引き起こす病原菌は土壌を介して感染するため、空気伝染性の病害と違い、薬剤散布の効果は低く、発生すると被害は大きくなり難防除病害として問題となっています。

 

土壌病害の説明写真

 

なぜ土壌病害が発生してしまうのか?考えられる原因は

 

1.伝搬方法
その植物を好む特定の病原菌が増殖し、収穫後も残根や残渣上で生き残り、連作と共に年々病原菌が集積され、感染・発病レベルまで菌密度が高くなってしまう。

 

2.土壌の微生物の種類の単純化
土壌中の有機物が少ないと、多様な微生物が住みにくい土壌となり、病原菌の競争相手となる微生物が減少、病原菌にとって生き残りやすい環境となる。

 

3.伝搬方法
不適切な肥培管理によって土壌中の養分過剰、養分のアンバランスが生じ、その結果、作物の生育が弱体化し、作物の抵抗力を弱める。

 

4.土壌消毒後、微生物が回復する前の定植
土壌消毒は病原菌と一緒に有益な菌も殺してしまう。しかし土壌を完全に殺菌することが難しく、有益な菌が土壌中に回復する前に植物を植えると、わずかに生き残った病原菌の方が根の周囲で優位に増殖しやすい。

 

5.靴・耕運機などによる病原菌の伝播
靴や機械に付着した土により、新たな土壌または消毒後の土壌に病原菌が持ち込まれてしまう。

 

土壌病害対策として重要なのは、発生原因となるものをできるだけ取り除くことです。
花き栽培は輪作が難しいのが現状で、連作しても病原菌が増えない対策が求められています。

以下が対策の具体例です。

 

●土壌の微生物の種類の単純化
但し未完熟な堆肥等は病原菌も含まれる可能性があるので、十分完熟したものを使用する。

 

土壌消毒後、1ヶ月以内の病原菌持ち込みを厳重注意
土壌消毒直後から1ケ月間位は土壌の微生物相も不安定であり、この期間は特に病原菌を持ち込まないよう注意する。農機具、長靴のクレゾール石鹸液(原液を100倍希釈で使用)での消毒は効果的である。

 

有用微生物資材を活用して、土壌中に有用菌を増やす
土壌条件により使用した有用微生物が定着しないこともあるので、自分の土壌にあった資材を探す

 

地温ができるだけ発病条件にならないように管理する
フザリウム菌は一般的に25-28℃が発病の適温で、夏場の地温抑制は発病を抑制する効果がある。


あなたの土壌は大丈夫ですか? 有用な菌が減って土壌病原菌が増えてきていませんか?

土壌病害対策のポイントは土壌微生物と植物病原菌について理解し、健全な土作りを始める事が第一歩です。

(2009年10月23日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • 植物ウイルス病の対策について
  • 2009.8.28

 

ウイルス病は菌類によって引き起こされる病気と違って、一旦感染すると、薬剤散布での治療が難しい病気です。ウイルスは遺伝情報を担う核酸とそれを覆うタンパク質からなる極小の生物で、宿主の生体機能を乗っ取り増殖します。そのため植物に影響がなく、ウイルスだけに効果のある薬剤の開発は非常に難しいのです。
ゆえにウイルス病対策の大事なポイントは感染させないこと、感染した植物はいち早く処分することなのです。

ではウイルス病の感染が広がっていく要因は何でしょうか?

 

1. 感染源(ウイルスが感染した植物)がある。
2.

感染経路(媒介昆虫やハサミについた汁液等のウイルス媒介手段)がある。

ウイルスが植物に感染するには、植物独特の組織、細胞壁を通過しなければならない。傷ついた細胞壁を介して感染するケースがほとんどである

3. 宿主(ウイルスに感染する植物)がある。

 

大きくこの3つがあげられます

 

■感染源を取り除く

まず感染源についての対策は、まったく病徴を示していない周辺の雑草や他の作物が感染源になるケースが多く見られます。雑草はウイルスに感染しても生育不良や枯死を起こさない抵抗力のあるものが自然界で生き残っているので、ウイルス病に強くなっています。しかし、ウイルス病に強い雑草というのはウイルスに感染しないのではなく、感染しても病徴示さずウイルスを保毒しているケースが多く、感染源となる危険性がありますので、栽培施設周辺の除草は作物のウイルス対策の基本となります。

 

代表的な雑草の写真

 

■感染経路を断つ

次の対策は感染経路を断つ事です。しかしウイルス種によって感染経路が違うので、何を介してウイルスが感染するのか知らなければなりません。

 

1) 昆虫が媒介するウイルスは防虫ネットによる物理的な隔離、薬剤散布・粘着シートによる殺虫
2)

ハサミについた汁液が媒介するウイルスの場合は第三リン酸ソーダ石鹸(リン酸三ナトリウム12水和物10%、中性洗剤5%含有)でアルカリ分解や、火炎滅菌などで消毒するなどの対応

3) ウイルスの種類によっては土壌の線虫や菌類を介して感染が広がるため、土壌消毒が必要になるものもあります。

 

 

トマト黄化えそウィルスの病徴を示す植物の表

 

トマト黄化葉巻きウィルスの感染が確認されている植物の表

 

■ウイルス抵抗性・耐病性品種とは

最後に最も効果的と思えるのはウイルスに感染しない抵抗性品種を使うことなのですが、花の品種ではウイルス抵抗性品種は多くありません。病徴を示さない程度にウイルスの増殖を抑える耐病性品種は存在しますが、耐病性品種では他の植物にとって感染源となってしまう可能性があることを頭に入れておかなければなりません。
どんな品種であれ生育初期からウイルス対策することが重要なポイントです。

 

まず問題としているウイルス病はどのような症状を示し、どの植物に感染し、どんな手段で感染して広がっていくのか、知ることがウイルス病対策の第一歩です。

(2009年8月28日)

[ TEXT:森本 正幸 ]

  • 美しいお花は良い苗から
  • 2008.12.9

 

FIDES挿し穂生産の様子写真
FIDES挿し穂生産の様子

 

浜松花き商品開発センターマム温室の様子写真
浜松花き商品開発センターマム温室の様子

今回はオランダのグループ会社で、キク、カランコエを中心とした育種・種苗生産を展開しているFIDES社(フィデス)の『優良苗育成システム』についてご紹介いたします。

美しいお花を作る上では、病気に感染していない健全な苗を用いることが大切です。せっかくの素敵な品種も、病気の苗を使っては生産性も品質も劣り、十分にその力を発揮することができません。よって、生産者の皆様に、安心してお使い頂ける高品質の健全苗をお届けするのが、この『優良苗育成システム』です。

 

■システムの概要は以下になります。


1.有望品種・系統の選抜、育成
2.主要病原に対する検定
 (ウイルス、ウイロイド、バクテリア)
3.隔離された温室で約6ヶ月育成
 主要病原に対する検定を4回実施
 (ウイルス、ウイロイド、バクテリア、菌)
4.さらに検定し、健全原株を育成
 【スーパーエリート株】
5.さらに検定し、健全母株を育成【エリート株】
6.このエリート株を母株として、販売用の
 優良挿し穂を生産

 

このように有望な品種が育成されてから、約1年間を要して苗の生産がスタートします。健全な挿し穂苗の生産は、品種の育成と伴に私達の事業の両輪となるものです。これからも早く・確実な病害診断技術の向上に取り組み、安心してご利用できる高品質の苗をお届けできるよう、そして美しいお花をご覧いただけるように、努力を続けていきます。

(2008年12月9日)

[ TEXT:工藤 博司 ]

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