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育種のトビラ
第5回:PLANTED#8発売!

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待ちに待った『PLANTED』(以下プランテッド)第8号が、8月8日に発売されました。今回は誌面ではお伝えできなかった裏話と、取材日から発売日までの間の植物の変化についてお伝えすることにしましょう。(2008年7月)

◆取材日当日(6月3日)

前回の東京での打合せから、あっという間に3ヶ月半が経ってしまった。月日の経つのは早い早い。特に締め切りに追われる仕事だと余計にそう思う。ましてや、なかなか前に進まない状況だとなおさらだ。植物の育種を企画段階から公開してしまうなんて、やはり無謀だったかもしれないと弱気になった時期があったことも事実。正直、5月に入るまでは、次号用の取材のことを考えるのは気が重かった。でもまあ、今になってみれば、結構順調に来ている方ではないかなって思う。


さて、取材当日は運悪くどしゃぶりの大雨。梅雨の雨にしては激し過ぎで、「誰だぁ〜、雨男は?」なんて恨めしい目で空を睨んでみても無駄な抵抗。これが気に食わなかったのか、雨はますます強くなってしまった。そんな中、東京からルーカスさん達が車で到着し、この日の弊社植物開発研究所での取材が始まった。


まずはモノを見てもらう前に、会議室で4つのターゲットそれぞれについて状況を説明することに。関係者それぞれに品種の完成イメージを膨らませてもらうためだ。その方が確実に、ドキドキ感、ワクワク感が大きくなる。こちらの期待感は早速みんなで共有。さらに最初の花を拝めるのがいつになりそうかといった話題に進んだら、既に各自もう勝手に頭の中でプランテッドオリジナル品種の姿を空想しているかのようだった。
私が説明している写真


私が説明している様子
(photo by Ayu Kobayashi)

◆秘密の開発コード『どげんかscentいかん』の正体は?

4つのターゲットのうち、今号で具体的な植物種を明らかにできたのは2つのみ。まずは、香りにこだわった『どげんかscent(セント)いかん』から。


日本人が好む優しくさわやかな香りの植物ということで私が選んだのは、エリシマム。イギリスでは、ウォールフラワーの名前で呼ばれるほど、よく親しまれている花だ。しかし、日本ではなぜかまだまだマイナーな存在。ここに私は目をつけたのだ。どこかの国で既に人気のある花であれば、ちょっとしたことで日本でも人気が出る可能性あり。


しかし難しいのは、ターゲットの選定より実際にどうやって改良するかの方だ。育種にいくらでも時間をかけられるのであれば色々な手があるが、2年間という制約があってはそうはいかない。当たるも八卦当たらぬも八卦。結局私は、雑種ができるかどうかすら誰にも分からない種間雑種作出に賭けることにした。もちろん交配して簡単に雑種ができてしまえば言うこと無しなのだが、滅多にそんなことはない。育種家であれば誰もが考えつきそうな組合せでこれまで雑種が作られていないということは、普通に交配しても種子ができない場合がほとんどなのだ。案の定、このエリシマムもそうで、種子は全くできなかった。


そこで登場する技術が胚培養。ユリの育種で凄い威力を発揮した方法だ。そして運良く、エリシマム・チェイリとエリシマム・マーシャリーの2種間で雑種を獲得することができたのだ。これらはまだ試験管の中で育っている状態で、予断を許さない。いくら無菌培養条件下で育っても、外の土に植えられて生きていられなければ意味がないからだ。実際に土に植えてみるのは、少し涼しくなる9月に入ってからの予定。

 

培養庫を見学中のルーカスさん写真
培養庫を見学中のルーカスさん

 

エリシマム種間雑種の培養苗写真
7月14日現在の
エリシマム種間雑種の培養苗

◆そして、『これでいいんどあ♪』の正体は?

室内で楽しむ『これでいいんどあ♪』の方は、カランコエを選んだ。こちらは思いっきり本気モード。

普通のカランコエは花色も豊富。室内で長く花を楽しめる他、世話も簡単なので、世界中で愛されている。近年、八重咲きのカランディーバが登場したこともあって、さらにカランコエ人気は高まっている状況だ。だから商売的なことを考えると、『これでいいんどあ♪』こそ本命だと言える。
ちなみにこの育種は、プランテッドの企画が始まる前から予備試験だけは始めていたものだ。


さて、具体的にどんなカランコエを育種しようとしているのかというと、それはベルタイプ。釣り鐘状のかわいい花をぶら下げて咲かす種類だ。確かに姿形は申し分ないのだが、綺麗な色の品種が無いことが欠点で、人気があまりない。だからこそ逆に、黄色やオレンジの綺麗な花が咲く品種さえ作れれば、一躍それが世界的な人気品種になる可能性は高いのだ。

播種は5月15日。ほぼ予定通りの苗数を確保できた。開花は1月頃。期待大♪


最後に裏話をひとつご紹介。
プランテッド本誌写真4の10円玉は、ルーカスさんのポケットにたまたま入っていたもの。じつはその時、他の人は誰ひとりとしてお金を持っていなかったのです。大雨の中わざわざ硬貨を取りに戻るのも面倒でしたので、大助かりでした。

カランコエの実生苗写真
7月14日現在のカランコエ実生苗

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